長すぎた春に、別れを告げたら
「入ってもいいですか?」

オフィスの出入り口から声がして顔を上げると、相良さんがいた。

「あれ? ランチに行ったんじゃ……」

戸惑う私に、相良さんはまっすぐに歩み寄ってくる。

「先に抜けてきました。苦手なんです。一般人なのにアイドルのように騒がれるのは」

彼は希帆さんたちが押しかけたのが不快だったみたいだ。

「ゆっくりランチできませんでしたか?」

「はい。浜名さんは来なかったですね」

「大人数でわいわいするのがあまり得意じゃなくて……」

私は苦笑いした。

「俺に興味がないのかと思いました」

「え?」

小さな声でつぶやいた彼を見上げたとき、はっとしたように顔を覗き込まれる。

「浜名さん? なにかありましたか?」

不意に頭に優しく手をのせられた。

あまりにも自然な仕草に、思わず固まってしまう。

「大丈夫ですか? 表情が優れないです」

指摘されて、私は慌てふためく。

「そ、そうですか? ……あっ、お借りしていた本、ありがとうございました。大どんでん返しがすごかったですね」

リュックから小説を取り出して返却した。

露骨に話題を変えようする私を、彼は真剣な顔で見据える。
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