長すぎた春に、別れを告げたら
「えっ、せめて私に作らせてください」

居候の上、食事も用意してもらうなんて図々しすぎるだろう。

「料理は趣味なんです」

相良さんは微笑んでキッチンに向かった。趣味というのは本当のようで、急にやって来たのに冷蔵庫には食材がいっぱい詰まっている。

私がおろおろしているうちにも、夏らしいズッキーニと鶏肉の甘酢炒めを作ってくれた。ほかにも二品と汁物、炊き立てのごはんがダイニングに並ぶ。

食欲がないので晩ごはんは抜こうと思っていたけれど、彼が作ったものなら残せない。

「いただきます」

男の人にごはんを作ってもらったのは初めてだった。

メルくんも私たちの近くでキャットフードをもぐもぐ食べている。

「とってもおいしいです」

感動するレベルだ。

「口に合ってよかったです」

「相良さん、男性のひとり暮らしなのに、私よりもきちんとした食生活をしてるんですね」

「仕事が忙しい時期以外は。ビール片手にずっとコンロの前にいるときもあります」

「えー、すごい」

意外な話を聞きながらごはんを食べる時間が楽しい。

今日の昼、監査チームとのランチから帰ってきた希帆さんは、『相良さん、先にお店を出て行っちゃうし、クールすぎてまったく近寄れなかったよ。脈なしすぎて泣けてくるー』と嘆いていた。

彼がこんなにもまめで優しい人だとは、誰も気づいていない。私だけが知っているなんて、なんだか不思議な気分だった。
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