長すぎた春に、別れを告げたら
◇ ◇ ◇

ビルのエントランスで彼女が傘を貸してくれたとき、『あ、この間の二宮金次郎だ』とすぐに気がついた。

彼女を二宮金次郎呼びするたびにかわいい反応が返ってくるから、しつこくからかってしまう。

元カレに復縁を迫られて困っている彼女を見かけたのは偶然だった。聞こえてきた会話の中に俺を指す言葉が出てきて、最初は戸惑った。彼女は元カレにあきらめてもらうために、会社の会計顧問の先生が好きだと嘘をついたようだった。

洋風居酒屋で事情を聞き、彼の浮気を許せなかったと語る姿を見て、彼女の心の傷の深さを知った。

容姿や肩書きでもてはやされるのは嫌いだが、頼られるのが好きなのと同じくらい心配性な俺は、自ら彼女に会いに行くようになった。

元カレにマンション前で待ち伏せされていると聞き、同居を提案したのは約一週間前のことだ。

世話焼きなのは、弟がふたりと妹がひとりいる四人きょうだいの長男だからだろうか。

メルのおかげもあって、俺を頼ろうとしない彼女をなんとか俺のマンションに連れてこられた。

彼女は危なっかしくてひとりにしておけない。

少しでも心地よく過ごせるように、朝に晩に手料理を振る舞った。俺は尽くすタイプでもあったみたいだ。

そして、ようやく彼女と手をつなげたと思ったのに――。
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