長すぎた春に、別れを告げたら
一年後――。

すっかり馴染んだダブルベッドで、私は目を覚ます。

「おはよう萌歌。今朝は萌歌が好きなブリオッシュフレンチトーストだ」

顔を洗ってダイニングに向かうと、侑史さんがキッチンから柔らかく微笑んだ。

「ブリオッシュフレンチトースト? やったあ」

正式に侑史さんと同棲を始めて半年。私が居候をしていたときと彼はまったく変わらず、朝に晩においしいごはんを作ってくれる。

独立し、会計事務所を開業したばかりで忙しいはずなのに、そんな様子はかけらも見せない。

変わったのは、私たちから敬語が消えたこと、下の名前で呼び合うようになったこと、そして恋人らしくなってきたこと。

「萌歌、飲み物はアイスティーでいいか?」

「うん。あ、それくらいは自分で淹れるよ。ていうかリモートワークの日は、ごはんは私が用意するよ」

無事に小さな出版社に就職し、編集者として働く私は、月の半分はリモートワークだ。

「料理は趣味だって言っただろ」

彼は頑なにキッチンを明け渡さない。本当にありがたすぎる趣味だ。

その代わり、ほかの家事とメルくんのお世話は私がしっかりとやるようにしている。リモートワークで家にいることが多いからか、この頃メルくんはとくに私に懐いていた。

今も私のそばにくっついている。

「にゃ~」

「メルくん、侑史さんに助けてもらった恩を忘れたのかな?」
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