皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
「幸崎さん、今日はどうしちゃったのかな」 
 
 そのヒリヒリとした空気に皆、散り散りになっていく。
 幸崎さんは、今日は機嫌が悪いのだろうか。それとも――私が何か気に障ることをしてしまったのだろうか。昨日までの朗らかさとは一転した態度に戸惑うと共に、私は浮き足だった気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。
  
 結局その日一日、幸崎さんとの距離は改善することはなかった。いつもならば直接私の席までやってきて指示をしてくれていた作業依頼も、素っ気ないメールが飛んでくるだけだ。気になって、目がつい幸崎さんを追ってしまう。けれど視線が合うたびに、すぐにフイと逸らされてしまう。
 
「やっぱり、イメチェンなんてしないほうがよかったのかな……」

 仕事中ぼんやりとそんなことを考えてしまい、キーボードを打つ手が何度も止まってしまう。幸崎さんに業務で迷惑をかけた心当たりは全くない。昨日と変わったことと言ったら、メイクと服装がいつもと違うことだけだ。けれどそれだけのことで、どうしてあんなに冷たい態度を取られてしまうのだろう。
 終業時刻を過ぎても、幸崎さんは忙しそうだった。私も作業を終わらせられず、結局残業することになってしまった。
 広いオフィスに、二人きり。キーボードを叩く音だけがカタカタ虚しく響く。幸崎さんが身動きする度に、気まずさに心臓が跳ねて息苦しい。そんな彼は私などいないかのように無視を決め込み、パソコンや書類に注視しているようだった。

 ――けれど私は、そんな態度を見せつけられて、もう我慢の限界だった。
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