皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
「なんていうのか、佐倉さん、今日……すごく可愛くて。正直、動揺してしまって、どうしていいか分からなかったんだ」
「……可愛くて?」
 
 言葉は耳に入ってくるけれど、脳がその意味を理解しようとしてくれない。

「うん。いつもと雰囲気が違ったから。その……驚いてしまって、つい、そっけない態度をとってしまった。本当にごめん」

 言いにくそうに言葉を紡ぐ彼の顔は、耳まで真っ赤になっていた。

「じゃあ、朝皆に怒っていたのは……?」
「怒っていた?……ああ、あれは俺はうまく佐倉さんと会話できないのに、皆佐倉さんと色々話してるから、つい」
「そんな……」

 幸崎さんの眼差しがいつもよりもほんのり熱を帯びているように見える。その真っ直ぐに輝く瞳に、なぜか私は急に恥ずかしくなってしまった。
  
「えーと、じゃあ、もう遅いし帰ろうか」
「はい……」

 思わず視線を逸らすように目を伏せると、幸崎さんは一呼吸おいて、自分のデスク周りを片付けはじめた。一方で返事こそしたものの、私はすっかり動揺していた。

(い、今の話って、どういうこと?)

 彼の言葉が、頭の中で何度も反響する。今日、あれほど落ち込んでいた気持ちは、一瞬にして吹き飛んでしまった。
 まさか、こんなことになるなんて。
 夢にも思っていなかった展開に、足元がふわふわしておぼつかない。だから私は、「どうして幸崎さんはそんな事を言ったのか」「どうして私はこんなにまで胸がドキドキしているのか」その理由まで考えることができなかったのだった。
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