皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい

映画とお見舞い、思わせぶりな態度?

 翌日、社員食堂で向かい合って座る雪は、スマートフォンを睨みつけながら大きなため息をついていた。

「うわ最悪。今日、残業になっちゃうかも」
「え?今日映画の日じゃん。大丈夫なの?」

 私と雪は、毎月交互に観たい映画を選び、一緒に観に行くのが恒例になっていた。今月のセレクトは雪の番。「楽しみにしてて!」と、選んだ映画は劇場に行くまでのお楽しみとなっていた。

「今使ってる経理システムが朝から不具合でさ。すぐ復旧するって言われてたのにまだ直らないんだって。今日は締め日だから絶対作業終わらせないといけないってのに……もう、ホントありえない!」

 雪は頭を抱え、液晶画面を私に見せてくる。確かにそこには『復旧は15時過ぎの予定』とのシステム部門からの無情なメールが表示されていた。

「コンビニ決済で先にチケット購入しちゃってるから、今更変更できないんだよね。あー、もう、楽しみにしてたのに!」
「返金って確かできないもんね。困ったね」
「うーんどうしようかな……美和、一人でも行ってみる?」
「でも、一人で見てもなあ……」
 
 映画鑑賞もさることながら、その後で感想を言い合うのもこの日の楽しみの一つだった。お金は勿体ないけれど、一人で見るのも味気無い。

「難しい顔してどうしたの?」
 
 私たちの横を通りかかったのは、打ち合わせの為朝から客先へと直行していた筈の幸崎さんだった。

「お疲れ様です。今お戻りですか?」
「いや、さっき戻ってきたんだよ。打ち合わせが中途半端な時間に終わっちゃって、外で食べると混雑してそうだから早目に社食に来ていたんだ」

 いたずらが見つかった子供のように肩を竦めた幸崎さんとは「それはそうと……」と小声で私の方へと腰を屈めた。

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