皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
「佐倉さん、昨日はごめんね」
「えっ?!いえ、こちらこそっ……」

 昨夜の出来事を思い出して、頬が一気に熱くなる。
 
「え?なに?なんですか、その怪しい雰囲気は?もしかして……二人、何かありました?」

 うまい返しが見つからなくてもじもじしていると、雪がニヤニヤと笑いながら、宙に指でハートマークを描きはじめた。

「ちょっと雪!」

 慌てて止めようと手を伸ばす私をヒラリと躱した雪は「そうだ」と、財布からチケットを取り出した。

「幸崎さん、今日の夜って何か予定ありますか?」
「いや、特にないけど」
「なら良かった!私、急な残業で映画に行けなくなっちゃって。幸崎さん、美和と一緒に行ってくれません?」
「えっ!?」

 雪のまさかの提案に、私は驚いて声を上げた。幸崎さんも目を丸くしている。

「せっかくのチケットがもったいないじゃないですか。美和も一人じゃ行きたくないって言うし……。なので幸崎さん、宜しくお願いします!」

 チケットを幸崎さんの手のひらに載せると、雪は半ば強引に頼み込みはじめた。

「いや、でも……」
「大丈夫ですよ!美和も二人でならぜひ行きたいって言ってましたし!」
「えっ、あの、私は……」

 話を急に振られて、頭が真っ白になってしまう。気乗りしないだろう誘いをかけて、幸崎さんを困らせたくはない。何か雪に言い返さなければと思っていると、暫く黙っていた幸崎さんから「そうだなあ……」と、思ってもみない反応が返ってきた。

「だったらせっかくだし、一枚譲ってもらってもいいかな?勿論佐倉さんがよければ、だけど」

 優しい眼差しと微笑みが、私の返事を待っている。

(私と幸崎さんが、一緒に映画に行く――?!)

 とてもじゃないが信じられない。これは夢ではないのだろうか?心臓はいよいよバクバク大きく音を立てる。頭が全く働かずあたふたしていた私だったが、気がつけば口からは率直な思いが飛び出していた。

「はい……勿論、お願いします!」

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