皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
「女子の部屋に幸崎さん一人で訪問なんて、エチケット違反でしょ?だから、私がついてきてやったのよ」

 彼女はそう言いながら、幸崎さんが持っていたお見舞いの品が入った袋をさっさと私に手渡し、まるで追い立てるように彼の背中を押した。

「病人に長居は禁物だから。幸崎さん、そろそろ行きましょう?」
「え?あ、ああ……そうか」

 幸崎さんは困ったように私を見て、小さく頭を下げた。

「佐倉さん、急にごめんね。お大事に」

 橘さくらに促されるまま、玄関前から立ち去ろうと背を向ける。そのままドアが閉まりかけた寸前、橘さくらはずいと私に顔を近づけた。
 その顔には、意地の悪い笑みが浮かんでいる。

「あんたが病気になってくれたおかげよね」

 私の耳元で彼女はそっと囁くと、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。

「これから、二人でデートなの」

 そう言い残すと、橘さくらは幸崎さんの腕に再び手を絡ませ、軽やかな足取りで去っていった。
 玄関のドアが静かに閉まる。
 
(デート……?)

 幸崎さんの優しい言葉も、温かい手の記憶も、全てが一瞬にして粉々に砕け散っていくようだった。こちら方面に用事があったのも、橘さくらと一緒だったのも、今日幸崎さんが彼女とデートだったからなのだろうか?
 なんだか目の前がくらくらしてくる。
 熱がぶり返すような悪寒を感じながら、私はその場にただ立ち尽くすのだった。
 
< 20 / 42 >

この作品をシェア

pagetop