皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
「ああ、橘さんね。帰る方向は別だから、駅で別れたよ。それより……この間から橘さんとの事ばかり聞いてくるけど、どうして、そんなことが気になるの?」

 その問いに、私は言葉に詰まってしまった。
 
「……どうしてでしょう?」

 困惑のあまり、思わず質問を投げ返してしまう。
 見上げた幸崎さんの顔には、いつもの優しい笑顔はない。その代わりに煌めく光を瞳に宿して、こちらをじっと見つめていた。その視線の熱に、心臓がドキンと大きく跳ねる。

「そうだな。例えば……俺のこと、好きだから……とか?」
「えっ?!」
 
 思ってもみなかった彼の言葉に、私は慌てふためいた。顔が真っ赤になり、手に持っていたマグカップがカタカタ揺れる。そんな私を見て、幸崎さんはふと笑みを漏らした。

「なんてね」

 そう言うと私の頭にそっと手を置き、ポンポンと軽く叩く。その手は映画館で握ってくれた時の、あの温かさだった。

「お先に。無理せず、早く帰りなよ」

 そう言い残し、幸崎さんは給湯室から出ていった。彼の言葉と、頭に残る手の温もり。私の心は、なぜか湧き起こる喜びと戸惑いの間で大きく揺れ動いていた。

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