皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい
「うーんとね」
 
 幸崎さんは、少し照れくさそうに頬をかいた。

「最初は、大人しそうな子だから、ちゃんと見守って指導してやらなきゃって思ってたんだ。でも、いつの間にか、一生懸命仕事に取り組む姿とか、俺にだけ見せてくれるはにかんだ様な笑顔とか、目が離せなくなってきて……」

 彼の手が、私の頬をそっと撫でる。

「気がついたら、佐倉さんのことばかり考えていて、正直、戸惑ったよ。教育係という立場で、社会に出たばかりの新入社員を恋愛対象として見てしまう自分に、少しだけ罪悪感もあったしね。それに、もし振られたら、この先会社で顔を合わせるのが気まずくなるだろうし……」

 彼も私と同じ気持ちだった。これは現実なのだろうか。今もまだ信じられないけれど、それでも彼の表情に嘘はなかった。

「俺だけが佐倉さんの素敵な所を知ってると優越感に浸っていたら、ある日雰囲気をガラッと変えて社内の注目の的になっちゃうしね。正直誰かに奪われちゃうんじゃないかって焦ったよ」 
「そんな、誰かなんて……!」

 慌てて否定すると、嬉しそうに幸崎さんが頷く。
  
「でもそんな悩みも葛藤も、今、全部吹き飛んだ」

 彼は私の手を再びぎゅっと握り、愛おしそうに微笑んだ。

「ただ、一つだけ心残りがあるんだ」
< 30 / 42 >

この作品をシェア

pagetop