皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい

変わる私

「ねぇ、美和。幸崎さんにそんなに優しくされて、それの何が不満なのよー?」

 カフェレストランでのランチタイムも終盤時。食後のドリンクを飲みながら経理部の同期、城山雪が顔を覗き込んできた。学生時代の友人でもある彼女は、私の社内での数少ない話し相手でもあった。
 
「不満っていうか……幸崎さんが優しいのは誰にでもってわかってるけど、優しくされると手間を取らせて申し訳ない気になるし、それに」
「それに?」
「何ていうか、変に勘違いしそうになって、逆に辛くなるというか……」

 幸崎さんに優しくされる度、胸が甘く疼いてしまうのはどうしてだろう。感情の整理がつかなくて、曖昧な言葉でごまかすと「ふぅん?」と訳知り顔の雪がニヤリと笑う。

「優しくされたら好きになっちゃいそうで困る、って?」
「えっ?」 
「まあ、幸崎さんてイケメンだしね。そんな人から優しくされたら乙女心がグラグラ揺さぶられちゃうよね」
「そ、そんなんじゃないよっ……!」

 そう。そんなんじゃない、はず。
 思いとはうらはらに急激に頬が熱くなり、慌てて傍らのレモンソーダに口をつける。
 
「ま、冗談はさておきキツいことばっかり言われるよりはいいんじゃないの?既婚者とじい様ばっかりのうちの部署に比べたら、恵まれてる話だと思うけどな」

 羨ましげに口を尖らす雪は、ガムシロップを入れたアイスコーヒーをくるくるストローでかき回す。

「恵まれてる、ねぇ」
 
 彼のふとした行動に、一喜一憂してしまう。そんな自分が嫌だった。眉間に皺を寄せる私を他所に雪は「そういえば」と話題を変えた。

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