冷徹御曹司は誤解を愛に変えるまで離さない

第十五章 たった一人

 あの日から、私はずっと考えていた。
 颯真は、あの交差点で私を抱き締めた時、間違いなく本気だった。
 ──でも、それを信じるのは、ずっと怖かった。



 そして迎えた、婚約披露宴の前日。
 会場の最終確認を終えて控室から出ると、廊下の先に颯真の姿があった。
 立ち止まった彼は、私にまっすぐ視線を向けてくる。

「……話がある」

 低い声に導かれるまま、人のいない会場の端まで歩く。
 そこは、明日の披露宴で私たちが立つ予定の場所だった。

「これ以上……お前を誤解させたまま式を迎えるのは嫌だ」

「……誤解?」

「ああ。俺はお前を“婚約者だから”守ってきたわけじゃない」

 息が詰まる。
 彼は一歩近づき、私の頬に触れる。

「ずっと前から……お前だけが欲しかった。冷たく見えたのは、不器用で、近づくほど自分を抑えられなくなったからだ」

「……嘘」

「嘘じゃない。噂の女なんか、最初から眼中にない。……美玲、お前が笑っているときも、怒っているときも、全部俺だけが見ていたい」

 真剣な瞳に、これまで何度も塞いできた感情が一気に崩れていく。
 胸が熱くなり、視界が滲んだ。

「……どうして、もっと早く言ってくれなかったの」

「怖かったんだ。お前に拒絶されるのが。……でも、もう逃げない」

 そして彼は、私を抱き寄せる。
 強く、でも壊れ物を包むような優しさで。

「美玲、俺はお前を愛してる。これから先、一度も手放す気はない」

 涙が頬を伝う。
 ようやく、ずっと欲しかった言葉を聞けた。

「……私も、あなたが好き。ずっと、ずっと前から」

 その瞬間、彼の腕の力が増し、温もりが全身を包み込んだ。
 長く続いた誤解と拗らせは、ようやく終わりを迎えたのだった。
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