臆病なあなたの、不完全な愛し方
どんなに隠そうとしても、伊山には十中八九見抜かれてしまう。
それならば、伊山に恋した自分で自然に振る舞えばいい。

伊山なら、真奈美の好意をさらりと受け流してくれるはずだ。

お付き合いを望んだり、告白なんて馬鹿な真似をしなければ、きっとこれまで通りやっていけると真奈美は信じた。

入り口のドアが開閉する重い音が聞こえ、そのすぐあとで、執務スペースの扉が開く音がした。
真奈美は伊山に駆け寄った。伊山は気まずそうに笑った。

「もう、大丈夫か?」
「大丈夫です。先ほどはありがとうございました」

笑顔で答えると、真奈美は頭を下げた。

「それならよかった。その、さっきは……」
「嫌じゃなかったですから」
「え?」
「むしろ、嬉しかったですから」

少しはにかんで、真奈美は伊山に素直な気持ちを伝えた。
すると伊山は一瞬固まった(のち)、安堵の表情を浮かべた。



たとえ星野が好意を寄せてくれたとしても、自分には応えられないし、応えるべきじゃない。
あくまで自分たちは、雇用主と従業員の関係だ。

伊山はそう自分に言い聞かせた。

あんなことがあっても、星野は辞めず、これまで通り一緒に仕事をしてくれるようだ。
それならこちらも、その気持ちに社長として応えなければと伊山は思った。

「星野、さっきのクライアントは、断ったから」
「え……」

途端に星野の顔が不安そうに歪む。

「星野のせいじゃないから。『俺が』やりたくなくなったから断った」
「そうですか……わかりました」

星野は弱々しく微笑むと、再びパソコンに目を落とした。

しっかりしなければ。

前髪をなでつけ、伊山は意識を切り替えた。
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