臆病なあなたの、不完全な愛し方
あんなことがあっても、翌日には何事もなかったかのように切り替えて仕事ができるのは、お互いに『大人』なんだなと真奈美は思った。
学生の頃の自分なら、気まずさに目をそらし、むしろ逃げるように距離を取っていただろう。

「星野、ちょっと見てほしいんだけど」

伊山の隣に移動すると、ディスプレイには進行中の案件のメインビジュアルが表示されていた。

「女性の目から見て、どう思う?」
「そうですね……高級感は出てるんですけど、黒がきついかもしれないですね」
「やっぱりそうか。星野ならどうする?」

真奈美はしばし考え、「この色はどうでしょうか」と、イメージに近い色を表示させた。
操作のために、身をかがめると、座っている伊山の体温を近くに感じたが、気にしないようにした。

「なるほど、青に寄せてくか。なら、緑はどうだろ」

ディスプレイを真剣な表情で見つめる伊山の横顔を、真奈美は盗み見た。今日も顔色はよさそうだ。
形のいい唇に目がいき、伊山はどんなキスをするんだろうと想像して、少し鼓動が速くなった。

「この色も合う気がする。どう思う?」
「いいと思います」

しかし、何食わぬ顔で答えることもできる自分に、真奈美は苦笑した。
同じディスプレイを見ながらの作業は、いつもより距離が近づくが、伊山も平然としている。

「大人ってすごい……」
「え?」
「なんでもないです」

その後の日々も、お互い変に意識することなく、順調に流れた。

最初は雑務ばかりだった真奈美も、次第に任される範囲が広がり、プロデュースの一端を担うようにもなっていた。

伊山と働く時間も、仕事そのものも楽しく、今の二人ならこの先も平和にやっていけそうだと真奈美は安堵していた。
しかし一方で、変化を望んでしまう自分がいることには、気づかないふりをした。
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