臆病なあなたの、不完全な愛し方
「こんにちはー。定期面談にきましたー」

今日も宮前は、インターホンを鳴らさず執務スペースに入った。

伊山と星野が驚いた顔で同時に振り向くさまは、宮前の好奇心を掻き立てた。
どうやら二人で、前方に設置された棚の整理をしていたようだ。

伊山がなにかを指示し、星野が笑顔で頷く。
星野は宮前のそばに来て、にこやかに言った。

「今日は会議室だそうです」

案内された席に座って待っていると、ノートパソコンを持った伊山と、お盆を持った星野が並んで入ってきた。

扉を星野のために押さえる伊山と、そんな伊山を見上げて微笑む星野。

宮前は心得た。

お茶を置いて星野が退室すると、優しげだった伊山の目が、冷静に数字を見定める経営者のそれへと切り替わった。

「……さ、今月も有難いご高説をお願いしますよ、顧問税理士さん」

皮肉たっぷりに伊山は切り出した。
親友をつつくのは後にしようと判断し、宮前は税理士としての仕事を始めた。

「……とまあこんな感じで、申請可能な助成金がいくつかあるから、検討してみてくださいねってのが今日の有難いお話。なんならうちに社労士もいますんで、どうぞ申請代行をご依頼くださいね、っと」

宮前は、広げていた資料をまとめると、トン、とテーブルに落として端をそろえた。

「たしかに有難い話だった。自社で申請は難しいか?」
「できなくはないけど、面倒で大変だよ。星野さんにやらせるのは可哀想」
「……依頼する方向で検討する」
「ぜひよろしく。ところで」

宮前は肩肘をつき、手に顎を乗せると、表情をやわらげた。

「君ら、くっついたんだね。俺は安心した」

伊山が持ち上げ損ねた湯呑が、茶托とぶつかって音を立てた。
宮前は、動揺を肯定と受け取った。

「高梨と別れたときは、本当にどうなっちゃうかと思ったけど、ちゃんと乗り越えられたんだな」

伊山は押し黙り、両肘をついて手を組むと、そこに額を落とした。

「え? まだくっついてないの? 二人して周りに花飛ばしてるのに? なにやってんの伊山」

宮前はため息をついた。

「いろいろ葛藤があるのはわかるけどさ。ここぞというときには、リスクを取れる奴だと俺は思ってるよ」

伊山が顔を上げた。表情から感情は読み取れない。

「さてと。時間もきたし、帰るとするわ」

書類を鞄に片づけ、立ち上がると、宮前は乱れた上着をきっちりと整え会議室を出た。
< 19 / 24 >

この作品をシェア

pagetop