臆病なあなたの、不完全な愛し方
伊山が選んだ店を、星野は気に入ったようだった。
掘りごたつで足が開放的になったからだろうか、先ほどよりリラックスしているように見える。

伊山はビール、星野はピーチウーロンのグラスを手に持った。

「じゃあ、久々の再会を祝して、乾杯」
「乾杯」

よほど喉が渇いていたのだろうか。星野はグラス半分のピーチウーロンを一気に飲んだ。

「お腹空いてるだろ。まずは食べよう」
「ありがとうございます。全部おいしそう」

伊山が適当に注文した一品料理を、星野は少しずつ取り皿に取って口に運んだ。
一口ごとに表情を変えながら、幸せそうに味わっている。

「さっきから、おいしいしか聞いてないな」
「だって、おいしいですもん」
「満足してもらえたならよかったよ」

ひとまずお互いに空腹状態から抜け出せたところで、伊山は本題を切り出した。

「で、実際どうなんだ、最近」
「そんなに気になります?」
「話したくないなら、別に話さなくていいけど」

星野は睨むように下から伊山を見上げた。小さい口をとがらせている。
拗ねたときの姪っ子にそっくりだ。

伊山は大げさにため息をついた。

星野の服装が、オフィスカジュアルではなく、地味なスーツであることと、先ほどから頑なな態度を崩さない様子から、察しはついている。

「ほら、意地張ってないで全部吐き出せ」

伊山の言葉にかたくなな態度がほどけ、星野はぽつりぽつりと話し始めた。

「今日は、面接で来たんです。いま転職活動してて」
「うん」
「今日のところで六社目で。先週五社目を受けたんですけど、さっきお祈りメールが届いて」
「そうか、残念だったな」
「他にいくつか応募したんですけど、書類選考で落とされたところも結構あって。なんか……こんなに上手くいかないなんて思ってなくて」
「うん」
「これまで一生懸命仕事してきたことが、全部無駄だったように思えてきて。自分は誰からも必要とされない無価値な人間なんじゃないかって思ってしまって……」

星野はグラスを強く握った。ずっと俯いたままのため、表情は見えない。

「本当は、誰かに聞いて欲しかった。伊山さんに相談したかったです」

相槌を打つ代わりに、伊山は深く息を吐いた。

「なるほどな、そんなことになってたのか」

もともと小柄な星野の体が、今はさらに小さく見える。

「受けたのは全部同業他社か?」

星野はこくんと頷いた。

「じゃあ、会社名で敬遠されたかもな」
「え! そうなんですか?」
「ああ。MMCは癖のあるやつが多いって思われてるからなぁ」
「そんなぁ」

星野はがっくりと肩を落とした。
伊山は、星野が遠慮してあまり取らなかったサラダの皿を、「ほら、アボカド好きだろ」と星野の前に移動させた。

「だからな、本人の資質とは関係ない理由で落ちることも多いってこと」

星野はアボカドを口に入れた。先ほど食べたアボカドより、味を感じるような気がした。

「星野」

伊山に呼ばれて星野は顔を上げた。

目を合わせると、そのまま視線をそらすことができなかった。
力強い意志を宿した瞳の奥に、星野に対する慈しみが滲んでいる。

「一度しか話してない相手からの評価で自分をはかるな」

星野は小さく息をのんだ。

「採用担当は、星野のことをきちんと知った上で判断したわけじゃない」
「……たしかに、三十分程度話したくらいで、ましてや書類だけで、私のなにがわかるんだって思うかも、です」
「だろ?」

今日再会してから初めて、星野が伊山に微笑んだ。
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