臆病なあなたの、不完全な愛し方
「それにしても、すでに面接を六社も受けてるってことは、本気で会社を辞める気なんだな」
ハイボールを飲みながら、感心するように伊山が言った。
その口ぶりからすると、伊山は転職に肯定的なようだ。
「あー……、実は、もう辞めてるんです」
「え、退職済み?」
「はい。先週で有給も消化して、無職になりました」
伊山に胸の内を話したことで、真奈美の心は明るさを取り戻していた。
真奈美の心を覆っていた暗い影は、いつの間にか消えていた。
ずっと後ろめたく感じていた予定外の退職も、肩書なしの自分も、今はあまり気にならない。
「次を決める前に退職って……星野らしくないな。なんかあったのか」
伊山が眉をひそめた。冗談めいた響きが消え、声がひときわ低くなった。
「たいしたことはないですよ。新しくやってきた役員と合わなかっただけです」
「役員と? そんなに接点あるか?」
「なぜだか秘書に抜擢されたので」
真奈美はグラスの水滴を指先で拭った。
「もしかしてセク」
「なにもされてないです」
かぶせるように言ってしまったことで、伊山にさらに怪訝な顔をさせてしまった。
「ただ、じっと見られてただけです。でもそれが気持ち悪かったので辞めました。以上です」
一息で言って、大きく深呼吸した。
伊山が心配そうに真奈美を見ている。
「大丈夫か?」
「辞めて数日は葛藤だったり悔しさだったりいろいろありましたけど、いまは落ち着きました」
「……ならよかった」
珍しく、伊山が言い淀んでいることに真奈美は気づいた。
「その……『男』は平気なのか」
「心配してくださってありがとうございます。今回は、たまたま変な人に遭遇しちゃっただけで、男性みんながそんななんて思ってないです。実際、二十八年生きてきて、初めてですし」
伊山が安堵の笑みを浮かべた。
真奈美の心の底に残っていた最後のしこりが溶けていくようだった。
もう、私は大丈夫だ。
ハイボールを飲みながら、感心するように伊山が言った。
その口ぶりからすると、伊山は転職に肯定的なようだ。
「あー……、実は、もう辞めてるんです」
「え、退職済み?」
「はい。先週で有給も消化して、無職になりました」
伊山に胸の内を話したことで、真奈美の心は明るさを取り戻していた。
真奈美の心を覆っていた暗い影は、いつの間にか消えていた。
ずっと後ろめたく感じていた予定外の退職も、肩書なしの自分も、今はあまり気にならない。
「次を決める前に退職って……星野らしくないな。なんかあったのか」
伊山が眉をひそめた。冗談めいた響きが消え、声がひときわ低くなった。
「たいしたことはないですよ。新しくやってきた役員と合わなかっただけです」
「役員と? そんなに接点あるか?」
「なぜだか秘書に抜擢されたので」
真奈美はグラスの水滴を指先で拭った。
「もしかしてセク」
「なにもされてないです」
かぶせるように言ってしまったことで、伊山にさらに怪訝な顔をさせてしまった。
「ただ、じっと見られてただけです。でもそれが気持ち悪かったので辞めました。以上です」
一息で言って、大きく深呼吸した。
伊山が心配そうに真奈美を見ている。
「大丈夫か?」
「辞めて数日は葛藤だったり悔しさだったりいろいろありましたけど、いまは落ち着きました」
「……ならよかった」
珍しく、伊山が言い淀んでいることに真奈美は気づいた。
「その……『男』は平気なのか」
「心配してくださってありがとうございます。今回は、たまたま変な人に遭遇しちゃっただけで、男性みんながそんななんて思ってないです。実際、二十八年生きてきて、初めてですし」
伊山が安堵の笑みを浮かべた。
真奈美の心の底に残っていた最後のしこりが溶けていくようだった。
もう、私は大丈夫だ。