臆病なあなたの、不完全な愛し方
真奈美がランチ休憩から戻ると、伊山がソファーで横になり目を閉じていた。
耳を近づけると、規則正しい静かな寝息が聞こえる。

最近は、昼食後に仮眠を取ることにしたようだ。
いいことだと真奈美は思った。

身を屈めて伊山を見つめる。
伊山の健やかな寝顔を見ていると、愛しさが胸にあふれて幸せな気持ちになる。

いつだって、隣にいたい。
どんなときも、そばで支えたい。
楽しいときも苦しいときも、二人で分かち合いたい。

「従業員」であることが、それを保証してくれるなら、これからもその立ち位置を守ればいいと思っていた。
伊山もそれを望んでいるのなら、そうするのが一番いいはずだと。

でも本当は、伊山の気持ちを知りたくてたまらない。
はかるような言動をしてしまうのはそのためだ。

告白する勇気はない。
だから「従業員」という立場に逃げているだけかもしれない。

この閉塞した状況に風穴を開けるきっかけがほしい。

真奈美は、伊山に自分のカーディガンをかけた。
伊山には小さすぎるが、なにもないよりはましだと思った。

気づくと伊山の唇に目がいってしまう。

伊山に触れたい、キスしたい。
そこに気持ちがなくてもいい。なにかのアクシデントでも構わない。

伊山とキスができたらいいのに。

無意識に伊山の唇に触れようとした自分に気づき、慌てて真奈美は手をひっこめた。
伊山がいい夢を見れていることを祈り、真奈美は自分の席に戻った。
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