臆病なあなたの、不完全な愛し方
「今日はごちそうさまでした。あと、話を聞いてくださってありがとうございました」
「ああ。俺も、話せてよかった」
店を出て、駅までの道を二人で歩いていた。
二時間前より冷気を帯びた風が、お酒で火照った体に心地よい。
「やっぱり駅の近くはビルが高すぎて月が見えないですねー」
「月?」
「今日は中秋の名月ですよ。気づきませんでした? 最初に会った歩道橋から、とってもきれいに見えましたけど」
「いや、まったく……」
伊山は、歩道橋を渡っていたときのことを思い返してみた。
階段を上り切った瞬間、最初に目に入ったのが、欄干に身を預けた女性の姿だった。
通りすがりの他人に意識をむけることなど、普段はない。
ただ今日は、なぜかその女性が気になってしまった。
引き寄せられるように近づいてみると、それは星野だった。
「星野さ」
「はい」
「うちで働かないか?」
「え?」
星野が立ち止まって伊山を見上げた。口がぽかんと開いている。
「ちょうど、誰か雇おうかと考えてたんだ」
「伊山さんの会社? ですよね」
「そう。一年前に登記して、一応、法人。まだ俺しかいないけどな」
伊山の突然の申し出に、なんと答えるべきか星野は考えあぐねているようだった。
「つまり、俺の会社の記念すべき一人目の社員」
「えーと……」
「嫌なら遠慮なく断っていいよ」
「嫌なんてそんな。ただ、さっきまで就職できないかもって悩んでたのに、急にこんな展開になって、いろいろ追いついてないだけです」
「たしかに急だったな」
伊山は星野を促すように再び歩き始めた。
「あの、なんで誘ってくださるんですか? その、面接落ちまくってるのに」
星野に目をやると、目を伏せて口を引き結んでいる。
謙遜というよりは不安から言っているようだった。
「だから、不採用くらいで自分の価値を低く見積もるなって」
伊山は、少し力を込めて言った。
星野がちらりと見上げ、また目を落とした。
額にかかる前髪を払いながら、伊山は言葉を探した。
「俺が、星野を優秀な人材だと思ってるからだよ。星野の実力なら、俺が一番知ってる」
星野の目がみるみるうちに潤んでいった。
涙がこぼれないように空を仰ぐと、はにかんだ笑みを浮かべた。
「伊山さんが言うなら、間違いないですね」
「そうだよ。自信持て」
不意に、隣を歩く小柄な女性の頭を優しくなでたい気持ちにかられたが、なんとか理性で押しとどめた。
伊山は、星野に気づかれないよう、音を立てずに深呼吸した。
「いますぐに結論を出さなくていい。詳しい条件を後で連絡する。連絡先変わってないよな?」
「はい、変わってないです」
「わかった。そういえば星野、俺が辞めてから一回も連絡してこなかったな。俺は深く傷ついた」
伊山はわざと恨みがましく言った。ついでに表情もそれっぽくしてみせる。
慌てた星野が身じろいだ。
「え! なんでですか! 独立起業って大変だろうし、邪魔しちゃダメだなって思って」
「冗談だよ。星野はそういうやつだってわかってる」
「ああ。俺も、話せてよかった」
店を出て、駅までの道を二人で歩いていた。
二時間前より冷気を帯びた風が、お酒で火照った体に心地よい。
「やっぱり駅の近くはビルが高すぎて月が見えないですねー」
「月?」
「今日は中秋の名月ですよ。気づきませんでした? 最初に会った歩道橋から、とってもきれいに見えましたけど」
「いや、まったく……」
伊山は、歩道橋を渡っていたときのことを思い返してみた。
階段を上り切った瞬間、最初に目に入ったのが、欄干に身を預けた女性の姿だった。
通りすがりの他人に意識をむけることなど、普段はない。
ただ今日は、なぜかその女性が気になってしまった。
引き寄せられるように近づいてみると、それは星野だった。
「星野さ」
「はい」
「うちで働かないか?」
「え?」
星野が立ち止まって伊山を見上げた。口がぽかんと開いている。
「ちょうど、誰か雇おうかと考えてたんだ」
「伊山さんの会社? ですよね」
「そう。一年前に登記して、一応、法人。まだ俺しかいないけどな」
伊山の突然の申し出に、なんと答えるべきか星野は考えあぐねているようだった。
「つまり、俺の会社の記念すべき一人目の社員」
「えーと……」
「嫌なら遠慮なく断っていいよ」
「嫌なんてそんな。ただ、さっきまで就職できないかもって悩んでたのに、急にこんな展開になって、いろいろ追いついてないだけです」
「たしかに急だったな」
伊山は星野を促すように再び歩き始めた。
「あの、なんで誘ってくださるんですか? その、面接落ちまくってるのに」
星野に目をやると、目を伏せて口を引き結んでいる。
謙遜というよりは不安から言っているようだった。
「だから、不採用くらいで自分の価値を低く見積もるなって」
伊山は、少し力を込めて言った。
星野がちらりと見上げ、また目を落とした。
額にかかる前髪を払いながら、伊山は言葉を探した。
「俺が、星野を優秀な人材だと思ってるからだよ。星野の実力なら、俺が一番知ってる」
星野の目がみるみるうちに潤んでいった。
涙がこぼれないように空を仰ぐと、はにかんだ笑みを浮かべた。
「伊山さんが言うなら、間違いないですね」
「そうだよ。自信持て」
不意に、隣を歩く小柄な女性の頭を優しくなでたい気持ちにかられたが、なんとか理性で押しとどめた。
伊山は、星野に気づかれないよう、音を立てずに深呼吸した。
「いますぐに結論を出さなくていい。詳しい条件を後で連絡する。連絡先変わってないよな?」
「はい、変わってないです」
「わかった。そういえば星野、俺が辞めてから一回も連絡してこなかったな。俺は深く傷ついた」
伊山はわざと恨みがましく言った。ついでに表情もそれっぽくしてみせる。
慌てた星野が身じろいだ。
「え! なんでですか! 独立起業って大変だろうし、邪魔しちゃダメだなって思って」
「冗談だよ。星野はそういうやつだってわかってる」