臆病なあなたの、不完全な愛し方
翌朝、真奈美は久しぶりに深く眠れたと感じた。
カーテンを開けて朝日を浴びると、平日なのに予定がない日の幸せを嚙み締めた。

昼食後、ソファーに腰を下ろした真奈美は、伊山を知る唯一の友人に電話をかけた。

「えー! あの伊山さんの会社で働くことになったの?」

昨日の出来事を掻い摘んで話すと、美香が驚きと興奮の入り混じった声で言った。

「まだ、決めてないよ。誘われただけ」

真奈美はクッションをもてあそびながら、美香の解釈を訂正した。

「なに迷ってるの、決めちゃいなよ。真奈美、伊山さんのこと好きだったじゃない」
「……好きだったけど、いま思えばあれは、ただの『憧れ』だったと思ってる」
「そうなの?」
「そう。社会人になって初めて深く関わった男性が伊山さんだったから、特別に思えただけ」

古今東西よくある話だ、と真奈美は思った。

「冷静な分析だこと。でもそれなら問題ないじゃない。失恋して失職する心配もないんだから。保護者みたいな存在の伊山さんと働けるなら、変なセクハラ上司のもとで働くより百万倍幸せだよ」
「確かにそうかも」

『保護者みたいな』は、言い得て妙だと真奈美は思った。

会社で上司と部下の関係だったとき、伊山は必ず一定の距離を保っていた。
物理的にも、精神的にも。
絶対に接触しないよう気を遣っているのもわかったし、プライベートな話題には踏み込まない配慮も感じられた。
それがとても心地よく、安心できたため、真奈美も伊山を頼ることができた。

「じゃあ、昨日面接受けたところが不採用だったら、伊山さんのところで働こうかな!」
「いいと思う。続報を期待してる」

その夜、六通目のお祈りメールが届いた。
しかし、美香の思惑通りになったことが少し面白くなかっただけで、不採用という事実はまったく気にならなかった。

真奈美は伊山に連絡した。
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