むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

【寝言の強制力】の意味



「ところでアイリス。君が魔法使いならば、このセレンの【寝言の強制力】を無くすことはできないのか? このままではセレンは……眠りから永遠に冷めなくなってしまうんだ。頼む……!! 何か方法を知っているなら、教えてほしい……!!」
「シリウス……」

 いつもならばアイリスとバチバチやりあうシリウスが、彼女に頭を下げる。
 このようなこと、誰が想像しただろうか。

「寝言の……って、あれ? てっきりもう解除されているのだと思ってましたけど……」
「「────へ?」」
 きょとんとした顔でそう言ったアイリスに、私とシリウスの間の抜けた声が重なった。

「だってお二人、結婚しましたよね? この魔法は、セレン様を気に入った精霊たちのおせっかい。セレン様がシリウス様のことで胸を痛めている時に眠りに誘い、寝言という形で自分の欲望や抑え込んだ感情、ストレスを発散させる、いわばセレン様の心を守るためのものなんです」
「私を守るための……もの?」

 あぁ、そういえば思い返してみればそうかもしれない。
 だって、眠った後はいつも心が軽いもの。
 それに、眠る時は学園やパーティで眠ることが多かった。
 学園でも、パーティでも、いつもシリウスは人気者で、私はそんなシリウスに付きまとう邪魔な女という立ち位置だった。
 人々の目によるストレスから、守っていてくれたのかもしれない。

 シリウスと結婚してから眠ることがなくなったのは、シリウスの溺愛に心が満足していたから、なのかしら?

「だからこそ、その魔法の解除法は、本当に思いあう人との口づけ。お二人結婚しちゃったんだし、当然そこらへん済ませて──」
「……」
「……」

 冷や汗が私とシリウスの頬をだらだらと伝い落ちる。
 そんな私たちを見て信じられないといった様子で、アイリスが「え……まさか……まだ、何もしてない……とか……?」と震える声で口にして、私たちはそろって首をゆっくりと縦に降ろした。

「嘘でしょぉおおおお!? 【寝言の強制力】のせいとはいえ昔から想いあってるのバレバレな二人が結婚したら、当っっ然、悔しいけれどあれやこれややってイチャイチャしてハッピーなエンドになりやがってるものとばかり思ってたのに!?」

「したいのはやまやまだがこの力で仕方なく結婚したと思われたままでどうにかなりたくはなかったんだ!!」

「とはいえ同衾してるんでしょう!? 手出してくださいよ!! 何なの!? ヘタレなんですかシリウス様は!!」

「私だって可愛いセレンを前に耐えて耐えて耐え抜いていたんだ!!」

 もうやめてぇぇえええっ!!
 恥ずか死ぬ……!!
 あぁでも、これ。この感じ、いつものアイリスとシリウスだわ。

「ふむ……ということは、だ。あとは二人に任せればいいんじゃぁないかな?」
「そうねぇ、私たちはお邪魔だろうから、明日の朝には領地に帰るわね。あぁアイリスは領地での新人指導を終えたから、こちらに戻ってくることになったわ。よろしくね。さ、二人も退散退散」

 そう言ってお義父様とお義母様はアイリスとロゼさんを連れて、颯爽と部屋から出ていってしまった。

「……」
「……」
 さっきのいろいろを聞いた後だ。
 ものすごく気まずい空気が流れているのがわかる。


「……セレン」
「……な、何?」

 互いのぎこちない視線が交差する。
 だって、この力の解除方法が、シリウスとの口づけ、だなんて言われたら、そりゃこうもなる。
 書面だけで結婚して、結婚式すら上げていない私達だ。
 仮初めのまま、白い結婚でいるのだと思っていたからこそ、何もしないままここまできたのだから。

「少しだけ、待っていてもらえる?」
「え?」
「私の気持ちは、昔から変わらない。もしセレンが私のことを嫌いじゃないなら──その、く、口づけ、させてほしい。でもその前にちゃんと、けじめをつけたいんだ。それまでもう少しだけ、待っていてほしいんだ」

 その瞳があまりにまっすぐで、私は苦笑いをこぼしてからシリウスの手に自分のそれを重ねた。

「もちろん。私の気持ちも、昔から変わらない。もう少しぐらい待つわ」
「セレン……。……ありがとう」

 その日私たちは、口づけをすることもなく、ただ一緒に手を繋いで眠った。
 久しぶりの同衾に胸は大きく高鳴るも、不思議と落ち着いて眠ることができたのは、シリウスの気持ちを、きっと私の中で信じることができたからなのだろう。

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