むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

シリウス浮気疑惑?



「……ねぇアイリス。シリウス、なんだかおかしくない?」
 庭を前にしたテラスで、アイリスが淹れてくれた紅茶を一口飲んでから私はむっすりと言った。

「へ? え、えーーーーーっと……何が?」
「何がって、全体的によ!!」

 あれからすぐ、ロゼさんはメイリー様のお屋敷に引き取られた。
 一から礼儀作法を叩き直す修行の為だそうで、これからメイリー様がみっちりと教育してくださるのだとか。

 メレノス島やメレの町で娼婦に戻るよりも、良い待遇だとは思う。
 すごく嫌そうなロゼさんだったけれど、一つ礼儀作法を覚えるごとに一回アイリスと出かけられる券という謎の報酬を前に大人しくストローグ公爵家へ発った。

 お義父様とお義母様も領地へ帰り、ようやく二人の時間がたっぷり──と思っていたけれど、この数日、シリウスは頻繁にどこかへ出かけていていないのだ。
 しかも公爵令息としての正装をしっかりとして。

 どこに行くのかと聞いても「いろいろ忙しくて」とはぐらかすだけ。

「……まさか、浮気……!?」
「あ、シリウス様に限ってそれはないです」
 即答するアイリスに、私は机に頬杖をついて庭を眺めながらため息を一つ落とす。

 わかっているけれど……なんだか不安になってしまう。

 シリウスの思いを疑うわけではないけれど、奴はモテるのだ。とんでもなく。
 それに、私にはまだ【寝言の強制力】がある。
 自分の中で、一つの枷になっているのだろう。

 それでもメレやメレノス島の仕事も落ち着いてきたのか、毎晩シリウスはとろけるように私に愛を囁いてくれるし、ぎゅっと抱きしめて眠る。
 それがほんの少しの疑問や不安も、一気に癒してくれるのだから、我ながらチョロいと思う。

「セレン様、大丈夫。きっともうじき──」
「セレン!!」
「ほら来た」

 息を切らしながらテラスに現れたのは、今話をしていたばかりのシリウスだ。

「どうしたの? シリウス。そんなに息を切らして」
 何かあったのかしら?
 疑問に思ったのも束の間、私の手はシリウスの大きな手によってがっしりと掴み上げられた。

「セレン、一緒に来てほしい」
「へ? あ、ちょ、ちょっと!?」
 そしてそのまま理由も聞かされることなく、私は彼に連れだされたのだった。

 ***

「ねぇシリウス、どこに行く気!?」
「今は私だけを見て、しっかり掴まっていて」

 連れ出され、シリウスの白馬に乗せられたと思えば、私を挟むようにシリウスが騎乗し、私はシリウスにしがみついた状態で出発した。

 シリウスの顔がすぐ近くにあることに、どうしても意識してしまう解除法。
 意識を振りほどこうとするも、体いっぱいに吸い込むシリウスの香りがそれを邪魔する。

「……今度から移動は馬車じゃなくて馬で良いかもしれないな……」
「何で?」
「馬車よりセレンがぎゅってくっついててくれるから、セレンの補充がしやすい」
「なっ……」
「あぁでも駄目だね。その分私のたがが外れかねない」
「~~~~~っ、今《・》は《・》外さないでくださいっ……!!」

 しがみついたまま叫んだ言葉は、シリウスに届いただろうか。
 ちらりとシリウスの顔を盗み見れば、その耳はすこしばかり赤く染まっていた。

「……」
「……」
「……あ、もうつくよ」
「へ? ──って……ここ……」

 風を切り進む中で見えたのは、アイリス王立図書館だった。

 そしてシリウスは図書館の前で手綱を引いて馬を止めると、私を抱きおろし、隣の騎士団の騎士に馬を頼み私の手を引いた。

「さ、行こう」
「え、えぇ」

 私は手を引かれるがままに、シリウスと共に、その古く歴史ある扉を開いた。




< 47 / 50 >

この作品をシェア

pagetop