むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

見届けるは精霊か


 しんと静まり返ったアイリス王立図書館は、あの精霊保護法の制定前から明日まで立ち入り禁止となっている。

 なんでも、守りの魔法の強化のためだそうだ。
 そんな場所に入っても良いのだろうか。
 不法侵入で捕まったりしないわよね?

 するとそんな私の不安を見抜いたように、シリウスがクスリと笑った。
「大丈夫だよ。殿下には許可をもらっているから。じゃなきゃ、今頃私たちは二人そろって守りの力で弾かれているところだ」
「いつの間に……」
 でも、殿下に許可を取ってまで、この場所に何の用があるのだろう?

 不思議に思いながらもシリウスに手を引かれるがまま、相変わらず書籍が飛び交う奥の方へと足を進める。
 まさかここに、今でも本当に精霊がいるだなんて。
 おとぎ話でも、昔ばなしでもなかった。

 三歳の頃、ここで起きた不思議な体験。
 きっとあの時に、妖精たちは私にこの力を授けたんだと、今ならそう思う。
 白く輝く、私に吸い込まれていったあの本こそが、【寝言の強制力】という力の魔術所のようなものだったのかもしれない。

 そんなことを思いながらシリウスに続くと、彼は中央の水晶の前で立ち止まって、書籍の飛び交う上部へと顔を向けた。

「精霊たち!!」
「!?」
 宙に向けて声を上げたシリウスに、私はピクリと肩を跳ねさせる。

「私の態度から、周りの目から、セレンの心を守ってくれていた事、感謝する!! そして私は……今ここに、セレンシア・ピエラを妻とし、この命尽きるとも愛し続けることを誓う!!」

 その宣言に応えはない。
 ただ、あれだけ宙を舞っていた書籍たちが動きを止めたことが、精霊たちが聞いているのだということを証明していた。
 そしてシリウスは私へと向き直ると、その場に跪き、私の手を優しくとった。

「セレン。私は──幼い頃から君が、君だけが好きだ。必ず大切にすると誓う。だから私と……、結婚、してください」
「シリウス……っ」

 書面上はすでに夫婦だ。
 だけどそれまでの一切を飛び越えてきた私たちは、ただの仮初め夫婦だった。
 三年間の仮初め夫婦を演じて、離縁する覚悟だってあったはずだ。

 いつからだろう。
 それがたまらなく嫌だと思うようになったのは。
 このままずっと一緒にいたいと、シリウスの囁く愛の言葉が本当だったならと小さな希望と欲を抱くようになったのは。

 願い続けた言葉に、私の頬を暖かな雫が流れる。
 1つ、2つ流れ落ち、筋を残していく様に、シリウスがぎょっと目を剥いて慌てたように私の両肩を掴んだ。

「ちょ、せ、セレン!? すまない!! また私が何か余計なことを? あぁもう……っ、私は何でこう──っ……!! もういっそのことアイリスに頼んで私の頭を切り開いて、どれだけセレンを愛しているかをセレンに見せてもらおうか」
「だっ、大丈夫だからそれはやめて!!」

 そんなことして見れるのはシリウスの思考じゃなくて頭の中の何かグロいものだ。
 軽くトラウマになるから勘弁してほしい。

「ごめんなさい。その、嬉しくて……。……私も、シリウスが大好きよ。私を、本当のお嫁さんにしてください」
「~~~~~っ、セレンっ!!」

 シリウスの長い腕にすっぽりと抱きしめられる私の身体。
 そのぬくもりが、たまらなく愛おしく心地良い。

「セレン」
「ん?」
「明日、朝から時間をくれ」
「明日?」

 何かあったかしら?
 預かっているメレの町やメレノス島の視察?
 それとも、きちんと妻になったから、そろってカルバン公爵領の領地にでも顔を出すとか?

 首をかしげる私に、シリウスが優しく頬を緩めた。

「詳しいことは明日の朝。さ、帰ろうか、セレン。あとはきっと、彼らが──」

 そう言ってシリウスは、静かに図書館の宙を仰ぐのだった。

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