野いちご源氏物語 三六 横笛(よこぶえ)
まとわりついて甘えていらっしゃる(みや)様たちのお相手をしながら、大将(たいしょう)様は若君(わかぎみ)を気になさっている。
<まだお顔をよく見たことがなかった>
この機会に拝見したいと思っていらっしゃると、(すだれ)の向こうから少しお顔をお出しになったの。
大将様が近くにあった花の枝を見せてお招きになる。
たたっと走って出ていらっしゃった。

立派なお着物を形だけお召しになっている。
お肌が白く光ってお美しい。
皇子(みこ)様たちより繊細(せんさい)なおかわいらしさよ。
そう思ってご覧になるからか、目元が衛門(えもん)(かみ)様に似ているような気がなさる。
若君が華やかな口元でにっこりなさった。
<私の勘違いなのだろうか。いや、父君(ちちぎみ)も必ず何かお感じになっているはずだ>
ぞっとして、よくよく若君をご覧になる。

宮様たちは(みかど)の皇子と思うから()(だか)く見えるけれど、それを抜きにして拝見すれば、世間のふつうのかわいらしいお子というくらいでいらっしゃるの。
でも、この若君はとても高貴(こうき)で特別にお美しい。
<本当に衛門の督の子なら、(なげ)き悲しんでおられる(ちち)大臣(だいじん)にお知らせしないのは(つみ)ではないだろうか。『形見(かたみ)と思ってかわいがる孫がいれば』と泣いておられるのに>
そう思われる一方で、
<いやしかし、まさかそんなことがあるはずがない>
と疑いを打ち消そうとなさる。
若君はおっとりと優しいご性格で、大将様によく(なつ)かれる。
複雑な事情があるかもしれないことはひとまず置いて、おかわいらしいとお思いになる。
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