野いちご源氏物語 三六 横笛(よこぶえ)
源氏の君と大将様は東の離れに移動して、のんびりとお話しなさっているうちに日が暮れかかった。
昨夜ご訪問なさった、女二の宮様と母御息所のご様子をお伝えになる。
源氏の君はご同情を含んだ微笑みでお聞きになっている。
「未亡人の宮様が『想夫恋』をお弾きになったのか。物語になりそうな美しい話だ。しかし現実では、女が男の気を引くようなことをするのは危険な行為だからね、少し軽率な気もする。熱心に通っているようだが、衛門の督の遺言に従って宮様のお世話をすると決めたなら、面倒事は起こさず清い関係のままでいた方がお互いのためになるだろう」
ご自分の女好きは棚に上げて立派なご意見をおっしゃるので、大将様はむっとなさる。
「面倒事などを起こすつもりはございません。一度や二度のお見舞いで終わりにしてしまったら、かえって世間から何かあったのではないかと疑われましょう。それでたびたびご訪問しているのです。
『想夫恋』をお弾きになったのも、宮様がご自分から進んでというわけではありません。話の流れでほんの少しお弾きになっただけですから、その場の雰囲気に合っていてすばらしいものでした。どのような振舞いも、良いか悪いかは人柄や場面次第でございましょう。
女三の宮様の姉宮であられますから、お年もそれなりで、落ち着いていらっしゃいます。私の方も浮気者めいた振舞いなどできない性格ですから、それで安心して訪問をお許しくださっているのだろうと想像しております。もちろん詳しくは存じませんが、お優しく品のよい宮様でいらっしゃるようです」
「そういえば昨夜、御息所から笛をいただきまして」
大将様は源氏の君に少し近寄って、衛門の督様の笛をお見せする。
それから昨夜ご覧になった不思議な夢のお話をなさった。
夢のなかで衛門の督様が『大切な人に譲りたかった』とおっしゃっていたことも。
源氏の君はしばらく黙りこんでしまわれる。
思い当たることがおありなのでしょうね。
昨夜ご訪問なさった、女二の宮様と母御息所のご様子をお伝えになる。
源氏の君はご同情を含んだ微笑みでお聞きになっている。
「未亡人の宮様が『想夫恋』をお弾きになったのか。物語になりそうな美しい話だ。しかし現実では、女が男の気を引くようなことをするのは危険な行為だからね、少し軽率な気もする。熱心に通っているようだが、衛門の督の遺言に従って宮様のお世話をすると決めたなら、面倒事は起こさず清い関係のままでいた方がお互いのためになるだろう」
ご自分の女好きは棚に上げて立派なご意見をおっしゃるので、大将様はむっとなさる。
「面倒事などを起こすつもりはございません。一度や二度のお見舞いで終わりにしてしまったら、かえって世間から何かあったのではないかと疑われましょう。それでたびたびご訪問しているのです。
『想夫恋』をお弾きになったのも、宮様がご自分から進んでというわけではありません。話の流れでほんの少しお弾きになっただけですから、その場の雰囲気に合っていてすばらしいものでした。どのような振舞いも、良いか悪いかは人柄や場面次第でございましょう。
女三の宮様の姉宮であられますから、お年もそれなりで、落ち着いていらっしゃいます。私の方も浮気者めいた振舞いなどできない性格ですから、それで安心して訪問をお許しくださっているのだろうと想像しております。もちろん詳しくは存じませんが、お優しく品のよい宮様でいらっしゃるようです」
「そういえば昨夜、御息所から笛をいただきまして」
大将様は源氏の君に少し近寄って、衛門の督様の笛をお見せする。
それから昨夜ご覧になった不思議な夢のお話をなさった。
夢のなかで衛門の督様が『大切な人に譲りたかった』とおっしゃっていたことも。
源氏の君はしばらく黙りこんでしまわれる。
思い当たることがおありなのでしょうね。