野いちご源氏物語 三六 横笛(よこぶえ)
よけいなことは言わず用心(ようじん)深くお振舞いになるので、大将(たいしょう)様は打ち明けにくく思われるけれど、この機会を見逃すことはおできにならない。
たった今思い出したようにさりげなくお話しになる。
「亡くなる直前、衛門(えもん)(かみ)は私にいろいろと()(のこ)したのですが、そのなかに父君(ちちぎみ)のこともございました。『源氏(げんじ)(きみ)と行き違いがあって、まだお許しいただけていない』というようなことを、よほど気がかりなのか何度も申しておりました。いったい何のことだったのでしょう。私には思い当たることがございませんから、気になっております」

わざとらしいほど不思議そうにおっしゃるので、
<やはり分かっているのだ>
と源氏の君はお思いになる。
でもご態度に表すわけにはいかない。
しばらく首をひねってみせて、
「いや、私が衛門の督に何かをした心当たりはない。またあらためてその夢の話はしよう。夜は夢の話をしない方がよいという言い伝えがあるらしい。女房(にょうぼう)たちが言っていた」
それ以上何もおっしゃらないので、大将様は気まずくお思いになる。
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