月と夜
「ふーん? 私はほしいかな。月は子供が嫌い?」
月は何も言わなかった。
「私はさ、まず仕事ありきで行きたいの。
そりゃいつかは結婚して子供もほしいけど……どうしても今の会社でやっていきたいんだ。
ずっとやりたかった仕事で、面接しまくってやっとやっと滑り込めたんだから。この私のスペックから到底無理だと思っていた会社なんだから。……だからさ、最低3年は仕事だけに邁進したいの」
話しながらどんどん、鼻息荒くなってしまった。
「それならなおさら、一緒に生活した方が都合よくない? 何かと助け合えるし」
私とは対照的に冷静な月。
「うーん……忙しくなると多分私、そればっかりになっちゃうと思うんだ。月への思いやりとか、約束とか大事なことも忘れちゃったりしてさ。だから落ち着くまでひとりで頑張った方がいいと思う」
うんうんと無言で頷く月。私を説得するのを諦めたようだ。
「覚悟はわかった。君の人生だ」
「我儘でごめんね」
「いいよ。夜が幸せに生きることが僕の幸せでもある」
「なんかカッコいいこと言っちゃって」と笑う私。
「本気だし」と、月は背後から私を抱きしめた。
月の言葉に嘘はないだろう……月は私を大事に思ってくれている。
でも私は? 月が好きだという気持ちと、若いのだからまだ縛られたくないという気持ちが葛藤している。仕事のせいにして結論を先延ばしにしたのかもしれない。
°.✩┈┈∘┈🌙┈∘┈┈✩.°
「満月、十六夜 、立待月、居待月……その次って何だっけ?」
「寝待月、更待月、下弦の月、晦」
「さすが名前に月がつくだけあってよくご存知で」
「まあね」
「今日は更待月ぐらい? 会えないとこの月みたいにどんどん気持ちが減っていくような気がするなあ」
「それは困る」
「じゃあ週末……来る?」
「行くよ」
「どこかへ行く?」
「いや……できたらずっと籠もっていたい。一週間分ね」
「ふふふ」
月は私の輪郭を確かめるようにそっと触れる。優しく優しく……ていねいに愛してくれる。
そんな風に愛してくれる彼と、愛してもらえる自分が好きだった。
°.✩┈┈∘┈🌙┈∘┈┈✩.°
月に「ごめんね」を言うことが増えた。
デートのキャンセル連続3回目。
社会人二年目から怒涛の忙しさとなり、残業は連日に渡った。これでは結婚どころではない。
忙しさは新企画でプロジェクトリーダーを任されたことで、さらに加速した。
「これをやり遂げたら昇格してお給料上がるんだ。今が頑張り時かな」
「頑張りすぎるなよ。ちゃんと食べて、寝る」
「わかってるよ。昼休みに仮眠取ったりしてるし」
「うん……あとさ、結婚の約束も忘れないでね。もうすぐ3年目に入るでしょ」
「ごめーんまだ無理かも」
「やっぱり……わかっていたけどさ。いいよ、夜が幸せなら」
「うん、幸せ。忙しくても毎日充実してる」
「頑張れ」
「ありがとう月」
°.✩┈┈∘┈🌙┈∘┈┈✩.°
充実した毎日は、一瞬で吹き飛んだ。
ちょっとしたミスをきっかけに、私はプロジェクトから下ろされることになった。
部長に呼ばれて打ち合わせ室に行くと、渋い顔で言われた。
「また頑張ってくれればいいよ」
「もうチャンスはないのでしょうか?」
まだ諦めたくない。3ヶ月の間、ろくに休みもとらず頑張ってきたのに。
「そうは言ってもね。もう決まったことだから。
あ……次の打ち合わせがあるから。悪いね」
部長はこちらを見なかった。
「失礼します」
打ち合わせ室を出る際にすれ違ったのは、新リーダーになる予定の男らしかった。
少し気まずそうな表情で作り笑いをしたことですべてを悟った。
呆然としたまま自分のデスクに戻った。
お昼……皆で誘い合ってランチに行く中、ひとりコンビニのおにぎりを頬張りながら業務をこなしてきたせいで、愚痴を言えるような仲間もつくれなかったことに気づく。
月に聞いてもらおうかと思ったが、散々忙しさを自慢した手前ためらわれた。立ち直ってから「実はこんなことがあった」と話すことにしよう。
「由良咲さん」
月は何も言わなかった。
「私はさ、まず仕事ありきで行きたいの。
そりゃいつかは結婚して子供もほしいけど……どうしても今の会社でやっていきたいんだ。
ずっとやりたかった仕事で、面接しまくってやっとやっと滑り込めたんだから。この私のスペックから到底無理だと思っていた会社なんだから。……だからさ、最低3年は仕事だけに邁進したいの」
話しながらどんどん、鼻息荒くなってしまった。
「それならなおさら、一緒に生活した方が都合よくない? 何かと助け合えるし」
私とは対照的に冷静な月。
「うーん……忙しくなると多分私、そればっかりになっちゃうと思うんだ。月への思いやりとか、約束とか大事なことも忘れちゃったりしてさ。だから落ち着くまでひとりで頑張った方がいいと思う」
うんうんと無言で頷く月。私を説得するのを諦めたようだ。
「覚悟はわかった。君の人生だ」
「我儘でごめんね」
「いいよ。夜が幸せに生きることが僕の幸せでもある」
「なんかカッコいいこと言っちゃって」と笑う私。
「本気だし」と、月は背後から私を抱きしめた。
月の言葉に嘘はないだろう……月は私を大事に思ってくれている。
でも私は? 月が好きだという気持ちと、若いのだからまだ縛られたくないという気持ちが葛藤している。仕事のせいにして結論を先延ばしにしたのかもしれない。
°.✩┈┈∘┈🌙┈∘┈┈✩.°
「満月、十六夜 、立待月、居待月……その次って何だっけ?」
「寝待月、更待月、下弦の月、晦」
「さすが名前に月がつくだけあってよくご存知で」
「まあね」
「今日は更待月ぐらい? 会えないとこの月みたいにどんどん気持ちが減っていくような気がするなあ」
「それは困る」
「じゃあ週末……来る?」
「行くよ」
「どこかへ行く?」
「いや……できたらずっと籠もっていたい。一週間分ね」
「ふふふ」
月は私の輪郭を確かめるようにそっと触れる。優しく優しく……ていねいに愛してくれる。
そんな風に愛してくれる彼と、愛してもらえる自分が好きだった。
°.✩┈┈∘┈🌙┈∘┈┈✩.°
月に「ごめんね」を言うことが増えた。
デートのキャンセル連続3回目。
社会人二年目から怒涛の忙しさとなり、残業は連日に渡った。これでは結婚どころではない。
忙しさは新企画でプロジェクトリーダーを任されたことで、さらに加速した。
「これをやり遂げたら昇格してお給料上がるんだ。今が頑張り時かな」
「頑張りすぎるなよ。ちゃんと食べて、寝る」
「わかってるよ。昼休みに仮眠取ったりしてるし」
「うん……あとさ、結婚の約束も忘れないでね。もうすぐ3年目に入るでしょ」
「ごめーんまだ無理かも」
「やっぱり……わかっていたけどさ。いいよ、夜が幸せなら」
「うん、幸せ。忙しくても毎日充実してる」
「頑張れ」
「ありがとう月」
°.✩┈┈∘┈🌙┈∘┈┈✩.°
充実した毎日は、一瞬で吹き飛んだ。
ちょっとしたミスをきっかけに、私はプロジェクトから下ろされることになった。
部長に呼ばれて打ち合わせ室に行くと、渋い顔で言われた。
「また頑張ってくれればいいよ」
「もうチャンスはないのでしょうか?」
まだ諦めたくない。3ヶ月の間、ろくに休みもとらず頑張ってきたのに。
「そうは言ってもね。もう決まったことだから。
あ……次の打ち合わせがあるから。悪いね」
部長はこちらを見なかった。
「失礼します」
打ち合わせ室を出る際にすれ違ったのは、新リーダーになる予定の男らしかった。
少し気まずそうな表情で作り笑いをしたことですべてを悟った。
呆然としたまま自分のデスクに戻った。
お昼……皆で誘い合ってランチに行く中、ひとりコンビニのおにぎりを頬張りながら業務をこなしてきたせいで、愚痴を言えるような仲間もつくれなかったことに気づく。
月に聞いてもらおうかと思ったが、散々忙しさを自慢した手前ためらわれた。立ち直ってから「実はこんなことがあった」と話すことにしよう。
「由良咲さん」