『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』


 琳華(リンファ)の入宮の支度はカネに物を言わせ、父親に言われた通りに侍女と一緒に必要な物を街で買い回った。流石に侍女も沢山のお金を持つのは怖いとのことで一部はツケで払って来たが琳華が周家の娘だと分かるや否や、話はなんともスムーズに進んでしまった。

 「お嬢さまぁ」

 鈴を転がしたような可愛らしい声音だと言うのに情けない腑抜けた声をあげる侍女の(シャオ)も周家に仕えて長い。琳華より二つ下の十八歳で元は下級ながら貴族階級であったのだが没落してしまっている。現在、彼女の家族や一族は完全に離散していた。
 梢の家と縁のあった琳華の父親が娘の侍女として丁度いい、と琳華が十二歳、梢が十歳の時に周家に迎え入れた。梢は皆から『小梢(シャオシャオ)』と呼ばれ、可愛がられている小柄な女性だった。

 「荷物持ちをさせてごめんなさいね」
 「いいえ、とんでもありません。お嬢様の侍女たるうぅ……不肖(ふしょう)シャオォォ……これしきのことぉ……っ!!」

 同じ年頃の女性より小柄な梢は大荷物を抱えているどころか背中にも今日は包みを一つ。琳華も本来、荷物など持たない立場であるが今日ばかりは髪を彩る紐や飾りなどが入った小さな包みを腕に抱えていた。
 それに秀女の中でも裏では常に順位付けがされる、と父親から聞いている。後宮内での衣裳は仕えている他の女官や大勢の下女たちと区別される為に秀女は皆が一様に後宮側が用意した同じ衣裳を纏いはする――が、一番上に纏う羽織物などは個人で用意しなさい、とのこと。
 その羽織の質は家柄を象徴する目印となっており、嫌がらせなどを受けにくいように、誰に手を出しているかを分からせる為の物でもあると父親は言っていた。

 秀女同士の間でもよろしくないいざこざを避ける為、とは言え。
 小柄な梢に大荷物を持たせてしまっている琳華は少し休憩をしようと持ちかける。その言葉に小型愛玩犬の如くうるうると嬉しそうに主人を見上げる梢に琳華は弱かった。梢はよく働くし、とにかく可愛い。

 「小梢、今日は父上の資金があるから一番高いのにしましょう」
 「よろしいのですかっ?!」
 「侍女にも美味しい物を振る舞ってこそ、周家は待遇の良い家だと世間様に知らしめるのよ」
 「流石です、お嬢様」

 非常に打算的である。
 そして周家は侍女や下男下女の使用人の扱いがとても良いと知らしめる為ならば安い物であった。なにより資金元は父親なので琳華の財布は痛まない。

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