東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
 ハネムーンだというのに、何故か甘い雰囲気が一切漂わない二人は、無事に滞在の本拠地であるイギリスはロンドンへと降り立った。
 
 最初の一週間はロンドンを中心に観光名所を巡り、翌週以降はパリ、ブリュッセル、ダブリンなどの周辺諸国へも足を延ばした。

 どの国でも会話に困らない高スキルの二人は、とにかく非日常を楽しみながら各地の伝統料理などを堪能し、それらを写真に収めSNSにアップする。
 杏奈たっての希望で、出発前に山葵がアカウントをつくり、ノーザンのメンバーだけをフォロワーとして承認したのだ。
 そこに山葵と紀糸が写真を投稿する度に、ノーザンのスタッフからたくさんのコメントが届く。
 
「みんなも一緒に旅行してるみたいですね」
 
「杏奈ちゃん、これ絶対に勤務中もチェックしてコメントしてるだろ……」
 
 コメント率ナンバーワンは、もちろん言い出しっぺの杏奈だ。彼女一人で、コメント欄を盛り上げてくれている。
 
「ふふ、戻ったらお仕置きですね。でもちゃんと、お客さんから見えないようにしてると思いますよ」
 
 杏奈は天真爛漫な天然女子なように見えて、わきまえる所はきちんとわきまえることのできる子なのだ。山葵は彼女のそういう部分を気に入っていた。
 
「それより、土産のオーダーが凄いことになってるぞ。どうするんだこれ」
 
 コメント欄は主に、山葵が食べている食べ物や買い物の写真に便乗して、それ買って来てくれ、あれも買って来てくれ、と、みんな好きな事ばかり投稿している。
 
「紀糸、リストをコンシェルジュに渡して買い集めてもらってください。帰国に合わせて届くように手配してもらいましょう」
 
「すべてのオーダーに応えるつもりか?」
 
「もちろんです。山葵達が今こうして遊んでいられるのは、皆さんが留守を守ってくれるからです。紀糸もお世話になっている秘書の方達くらいには買ってあげたらどうですか」
 
 ───まさか、10歳も年下の山葵の口から、そんな言葉を聞くことになるとはな……
 
 会社の規模は大きく違うにしても、同じ経営者として、紀糸は彼女を見習わねばと思った。
 彼は丁度最近、それが東雲だから、と言っていつまでも厳しく冷酷な独裁政権ではこの先人材の確保は難しくなっていくと感じていたのだ。 
 
「わさびお前、立派な経営者だよ。俺もお前を見習って、秘書たちになんか買ってってやるかな。晴人は──……いいか」
 
 とはいえ、当然ながら秘書たちへの土産を自分で選ぶつもりはない紀糸。コンシェルジュに年齢と性別を伝えて適当に購入しておいてもらおう、と絶妙に最低な事を考えていると……
   
「まぁ、それは建前です。本音としては、慌てふためく皆さんのリアクションが楽しみなだけです……ふふふっ」
 
「……」
 
 ───確かに、“冗談だったのに、本当に全部買って来てくれたんですか?! ”と申し訳なく思うだろうな。
 
「いい性格してるよ、お前」



 二人はハネムーンを満喫していた。
 
 
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