東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
そしてクリスマスが近づく12月後半、二人のハネムーンも残すところあと数日となっていた。
「いよいよですね」
「ああ、この為に旅先をここにしたも同然だからな」
ドレスコードに従い身なりを整え気合を入れた二人が訪れたのは、イギリスの有名な競馬場のうち、最も格式高い競馬場だ。
冬季は障害競走やファミリー向けイベント、高級料理やアフタヌーンティーが楽しめるフードフェスティバルなどが併催されている。
山葵の目的はこのフードフェスティバルもさることながら、本場の競争馬達を見る事と、とある日本人騎手に会う事だった。
「約束してるんだろ?」
「はい、圭介が取り付けてくれています」
と、そこに……
「東雲さんでいらっしゃいますか?」
格式高い場に似合う身なりに合わせた二人に、一人の男性が声をかけて来た。その人物こそまさに、数少ない日本人騎手の中でも、特別に山葵が会いたかった人物───……
「───っ! 十六夜 有馬騎手ですね?」
「はい、そうです。お待ちしておりました。今日はよろしくお願いします」
現れた十六夜騎手については、事前に山葵から紀糸に説明はしてある。
しかし、紀糸は思った。
───こんなにイケメンだとは聞いてないぞ、わさび!
実は彼の父親は山葵の祖父、神楽 喜八がスポンサーとなり育て上げた日本では大変有名な騎手だった。
そしてその人物の息子は双子で、一人は本場イギリスで騎手となったとお爺から聞いていた山葵は、いつか会いに行こうと思っていた。その気持ちは、ノーザンへ腰を据えて以降、一層強くなっていたのだ。
なぜなら───……
「十六夜騎手、単刀直入に言います。騎手を引退した後、日本へ……北海道のわさびの所へ来てくれませんか」
「……え?」