東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
004
「兄さんにそんなことまでさせてるなんて……」
「大介、これは仕事じゃなくて僕が好きでやってあげてるんだ」
「そうです。わさびが頼んだことは一度もありません。遠慮したことも一度もありませんが」
ハネムーンから戻った山葵を待っていたのは、圭介と百欄 大介との三人での生活だった。
本来、三人での生活はもう少し先の予定だったのだが、紀糸の不在により、急遽早まってしまったのである。
天候によりフライトが不安定になる冬季の間、紀糸は東京の本社へは出社しない。山葵の側に残りリモートで仕事すると決めている。それは、入籍後の昨年からすでに行われており、昨年は紀糸も圭介の住むこの社宅に滞在していた。
そして今年からは、新居の方で山葵と二人で生活する予定となっていた───のだが……
ハネムーンでひと月不在にしたこともあり、さすがに本社へ出向き仕事を片付ける必要があった彼は、帰国早々に東京へと飛び立ったのだ。
生活能力のない山葵は、紀糸が不在の平日同様に当然のごとく枕持参で圭介との社宅で寝起きする。
しかし、圭介と二人きりの社宅にはすでに圭介の補佐として雇用した彼の弟の大介が入居を済ませていた。当然、彼は山葵と圭介のプライベートまでは知るはずもなく……
「秘書の業務の範疇を超えてます! 風呂上りにドライヤーで髪を乾かすなんて……───っ貴女も貴女です! 女性として自分を恥じなさい! それでも既婚者ですか!」
同居初日、いつものように風呂から出た山葵の髪にトリートメントオイルをなじませ、ドライヤーで乾かす圭介の姿を目撃した大介が、突然騒ぎ出したのだ。
「だから、これは秘書とか関係ないんだよ。お前はする必要はないから気にするな。なんなら朝のメイクだって僕がしてあげてるし、わさびちゃんの下着だって僕が手洗いしてるんだからな」
ね、っと鏡越しに同意し合う二人の仲睦まじい様子に、大介は開いた口が塞がらなかった。
「大介、圭介はこの社宅ではわさびをオーナーとは呼びません。大介も、この家には仕事を持ち込まないでください」
「私は今、そんな話はしていません! 兄さん、どうしてしまったんですか! こんなおままごとのような……」
山葵の言わんとすることを理解しようとしない大介に、山葵は鏡越しに言った。
「大介、この家に住むのならルールを守ってください」
「なんですかルールとは……一応聞くだけ聞きましょう」
初対面からずっとこの調子の二人。
「ひとつ、わさびのすることに文句を言わない。ひとつ、圭介のすることに文句を言わない。ひとつ、この家に仕事を持ち込まない。以上、簡単な事です」
ドライヤーを済ませた圭介に、髪を梳かしてもらいながら山葵は続けた。
「それは、貴女が一般常識のある大人だった場合に適用されるルールですね。非常識に脚と翼が生えたような貴女に対しては適用外かと」
「ぷふふっ……ちょっと面白いですが、まだまだですね」
───非常識に脚と翼……想像するとちょっと愉快です……