東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
 山葵がそんな妄想を膨らませていると知ってか知らずか、見かねた圭介が弟に注意する。
 
「大介、それ以上わさびちゃん(・・・・・・)に失礼なことを言うなら、独身寮の方に移ってもらうぞ。ここに住んでくれた方が仕事が進めやすいと思ったのに……」
 
「なっ! 兄さんは、私よりこんな子供と生活する方がいいと言うんですか!」
 
「わさびは子供ではありません、人妻です。何度言ったらわかるのですか」
 
 眠っている間に髪が爆発しないように、圭介からゆるく三つ編みにしてもらいながら、山葵は口元を尖らせる。
 
「大介、もう一度言う。僕は好きでわさびちゃんのお世話をしてるんだ。こんな言い方は失礼かもしれないけど、ペットを可愛がっていると思って、お前は気にしなくていい」
 
「……だ、そうです。わさびは圭介の愛玩人間なのです」
 
 ふっと、勝ち誇ったような表情を見せる山葵に、大介は怒り心頭だ。
 
「なんの自慢なのですか! 恥を知りなさい! 兄さんも兄さんです! ペットって……私がおかしいのですか?! 違いますよね!?」
 
 圭介は声をあげる弟を無視し、山葵の歯ブラシを手に取り、歯磨き粉を乗せ、彼女に手渡した。山葵はその歯ブラシを受け取り、シャコシャコを歯を磨き始める。
 二人にとってはいつものこと。これが風呂上りから寝る前までのルーティンだ。
 
「大介、僕はわさびちゃんが小さい頃からずっとその成長を側で見てきたんだ。だから、自分の娘のように可愛いんだよ。その反面、彼女は経営者としても有能だ。そのうちお前もわかるよ───それに、さっきわさびちゃんも言ったけど、僕たちは仕事とプライベートはしっかり分けてる。この家に入ったら、彼女はもうオーナーではなく、ただのわさびちゃん(・・・・・・)なんだ」
  
 シャコシャコと歯を磨く山葵の後ろで、圭介は静かに語った。
 
「だからって……実の娘でも、本当の家族でもないのに……───っ」
 
「……大介、お前がその言葉を言うのか?」
 
 何やら訳あり気な二人の会話も、山葵はまったく興味がない。
 ガラガラァ───ッペッ……と、豪快に口を濯ぎ、歯磨きを済ませた。
 
「さて、頭の固い大介の説得は圭介に任せます。わさびはもう寝ます」
 
「話は済んでません!」
 
 差し出されたタオルで口元を拭いた山葵は、二人に背を向けてドアを開ける。
   
「おやすみ、わさびちゃん。ちゃんと肩までお布団かけて寝るんだよ」
 
「はい。兄弟喧嘩もほどほどにして、二人も早めに寝てくださいね」
 
「───なっ!」
 
 こうして、三人での生活は波乱の幕開けとなった。
 
 
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