東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
「キャー! オーナー! こんなに良いんですかぁ?! 嬉しいですぅ!」
  
 翌日、紀糸不在の中、山葵は営業開始前のカフェで、大量の段ボールに詰め込まれたハネムーンの土産を開封した。
 杏奈を筆頭に、大喜びのノーザンのスタッフ。
 山葵の予想に反し、皆慌てふためく様子がない。
 
「オーナご夫妻からのお土産です。皆さんSNSでご自分が頼んだものを持って行ってくださいね。特に頼まなかった方々は、こっちの箱に素敵なお土産が入ってますので、一つずつ持って行ってください」
 
 圭介がそう言うと、こぞって段ボールに群がった。
 
「……もっと、違うリアクションを想像していました」
 
 山葵が若干しょんぼりしながらボソッと呟けば、隣に立つ圭介は苦笑いで答える。
 
「え? ああ……昨年のクリスマスの件がありますからね、今更ノーザンの皆さんは驚きもしないですよ」
 
「……」
 
 昨年のクリスマス。
 ノーザンでは、山葵の発案により、スタッフ全員が七夕の短冊のように、願い事を書いた靴下型の色とりどりの紙をツリーに飾った。
 そしてクリスマス当日の朝、ノーザンの中央エントランスに設置された超巨大クリスマスツリーの下に、スタッフ全員分のプレゼントが並べられていたのである。
 もちろん、そのプレゼントは山葵と紀糸からのポケットマネーによる贈り物だ。
 
 そんな経緯もあり、ノーザンのスタッフはみんな、オーナー夫妻は太っ腹、という印象が強い。当然こうなることをわかっていて、SNSでお土産を強請ったのだろう、と圭介は笑う。
 
「むむむ……甘やかしすぎるのもいけませんね。わさびはひとつ学習しました」
 
 と、山葵が謎の後悔と反省をしていると……
 
「今年はクリスマスもお正月も、オーナー達が不在でいまいち盛り上がりに欠けたんです。やっぱり、皆がそろっている方が嬉しいですね!」
 
 杏奈が自分の土産を胸に抱きながら、ホクホクの笑顔で言う。
 
「……」
 
「オーナー、顔がにやけてますよ」
 
 杏奈のその言葉が、素直に嬉しいと感じた山葵。圭介に指摘されるまでもなく、自分がにやけていることに気付いていた。
 
「紀糸に会いたくなりました」
 
「ははは、嬉しいと思った事を東雲さんに共有したいんですね。素敵なハネムーンだったようで何よりです」
 
「はい、とっても楽しかったです」
 
 っと、圭介と山葵がほっこりしていると……
 
「……信じられない、土産の度を越している……SNSで土産を強請られるなんて、スタッフに舐められてるんじゃないのですか? もっと、オーナーとしての威厳を……」
 
 一人、違うテンションの男がいた。
 
 ノーザンのスタッフは山葵を舐めてなどいない。むしろ崇拝している者がほとんどだ。ゆえに、その聞き捨てならない言葉に、土産に群がっていたほとんどのスタッフが一瞬手を止めた。
 
 空気がピリッと張り詰める───……
 
 と、そこで……
  
「わさびを一番舐めているのは、大介です」
 
「間違いないね」
 
 山葵と圭介の突っ込みに、その場にいた全員が一斉に頷いた。それはもう息ぴったりに。
 
 
 ノーザンは、今日も平和だ。
 
 
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