東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
「失礼。先にいいだろうか。何故私がこのリクルートスーツの人達と同じ扱いなのですか?」
開始前に声をあげたのは、先ほどから不機嫌な様子を隠そうとしない、その男だった。
「……生意気です」
山葵は呟く。
オーナーである山葵のそのつぶやきは、彼女の仄暗い虚無の眼差しと相まって、候補者達を震え上がらせた。
「同じに決まってるでしょう。代表の前です、きちんとして下さい」
実は彼、山葵の秘書である樋浦 圭介の、年の離れた弟だった。その名も、百欄 大介という。
「……今日は、いい天気ですね」
大介の事を無視した山葵が、面接を開始するように候補者達に向かって口を開いた。
しかし、窓の外は土砂降りの雨。なんなら、雷も鳴っている。
候補者A君
───え……この人、大丈夫なのか? 外は雨だぞ、それも大雨だ……仮に雨が好きなのだとしても、今の場にはふさわしくないだろ。
候補者Bさん
───え、めっちゃ雨だけど……まぁいいや、とりあえず、笑顔笑顔。
候補者C君
───……わかる、俺も土砂降りって好き。外出なくていいし。室内にいる自分、安全っ最高って気分になるよね。
百欄 大介
───……はぁ、兄さんはこんな所で、一体何をさせられてるんだ?
山葵は黙って候補者達の心の声を聞く。
「……圭介の弟、生意気です」
「……? 私は何も発言していませんが」
「……───面接は以上です、お疲れさまでした」
山葵は席を立った。
そこですかさず、カフェスタッフの杏奈が笑顔で候補者の三名と圭介の弟にドリンクを提供する。
「と、言う事ですので皆さん飲んだらお帰り頂いて結構です。お疲れさまでした。合否は追ってメールでお送りいたします」
「……」
「……」
「……」
ひと言も言葉を発せず、オーナーに対し何のアピールも出来ずに終わった最終面接に、候補者達はぽかん、とあっけにとられている。
候補者A君
───絶対落ちた……終わった……
候補者Bさん
───なにこのラテアート! めっちゃ可愛い! 写真撮ったらダメかな?!
候補者C君
───……雨、止むまでここにいよっと……
新たに、ノーザンの仲間となるのは果たして誰か。