東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
005
「貴方が噂の東雲ホールディングスのCEOですか! ───お会いできて光栄です。私は百欄 大介と申します」
「初めまして、わさびの夫の東雲です」
大介は35歳、紀糸は32歳、年齢はさほど変わらないが、なぜか二人は同年代にしか見えない。圭介がそうであるように大介もまた、見た目年齢が若めなのだ。
容姿の整った大介に対して、紀糸は無意識に警戒態勢を取る。
「わさびの時とえらい違いです」
「そうなのか?」
笑顔で紀糸に握手を求め、間違いなく心から会えて嬉しそうな様子の大介。自分の時とのあまりの差にさすがの山葵も若干面白くない。紀糸の隣に隠れ、虚無の眼で大介を見つめながら、紀糸に告げ口をする。
「大介は何度言ってもわさびを子供だと言います。わさびが子供なら、紀糸はとんだロリコンです」
「わさび、誤解を招く言い方はよせ」
ロリコンではないにしても、当時高校生だったわさびに手を出した事実がある以上、紀糸はちょっぴり複雑なのだ。
そんな二人の内緒話しなど全く聞こえていない大介は、一人で勝手に聞いてもいないことをしゃべりだした。
「いや、実は私がこちらで兄を手伝う事を決めたのは、後ろに東雲さんがいらっしゃると聞いたからなのです。今や東雲グループはどの業界でも頭一つ二つ飛びぬけている。今のこの状況は神楽を吸収する数年前から変化し始めたと言われています。もちろん、神楽を吸収してさらにその差を見せつけた。その変化をもたらしたと言われる人物こそ、東雲 紀糸さん、貴方なのですよ!」
「「「……」」」
大介がそこまで紀糸を評価しているとは知らなかった山葵も圭介も、そして紀糸本人も、彼の熱量にぽかん、とあっけに取られてしてしまう。
「……そのような評価を頂いているとは光栄ですね。ですが、私はあくまでもノーザン・ファンタジアのCEOである東雲 山葵の夫というだけで、ノーザンの経営には一切タッチしておりません。今後もする必要もないと思ってます」
「またまた! ご冗談を! 貴方のお力なくして、ノーザンの業績がここまでいいはずがない」
圭介からノーザンの資料を見せてもらったのだろう。何も知らない大介は、ノーザンの発展はすべて東雲家との婚姻により恩恵を受けているものだと勘違いしていた。
「百欄さん、まだ何も聞いていらっしゃらないようですね───……赤字だったノーザンをわずか2年で黒字に立て直したのも、それを維持し、巨額の増資を行ったのも、すべては私の妻と樋浦氏の二人です。東雲も私個人としても、一切手も口も金も出しておりません」
「……え?」
紀糸の言葉に、嬉しそうに無言で頷く圭介。
一方、紀糸に褒められご満悦の山葵は、紀糸の手をとり自ら頭の上に乗せ、無言で撫でろと催促する。
そんな可愛い山葵に内心キュンとしながら、彼女の頭を撫でる紀糸。しかし、表情を緩めることなく、彼は続けた。
「私の妻は若いですが、経営者としてはすでに一人前であり、十分立派です。もちろん、樋浦氏の助力あっての事ではありますが、彼女のアイディアと発想、情報収集力と分析力、決断力に実行力、それを実現するだけの資金的体力を舐めないでいただきたい。加えてこの見た目ですので、彼女はとにかく人気者なんです。夫である私が困るほどに」
愛する山葵の事となると饒舌になる紀糸。“俺の嫁自慢”が止まらない。