東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
「では圭介、今日から例の件を大介と進めてください。わさびは今日はこのまま紀糸と一緒に一日オフです」
「かしこまりました。後は行政とのやり取りと許認可の関係だけなので、すべて大介に任せようと思っています」
笑顔を見せる圭介に、山葵はグッと親指を立てて、大介を激励した。
圭介が大介に任せるといった仕事は、この二人にとって少々相性の悪い相手なのだ。
「大介、頼りにしています。お役所はわさびを馬鹿にして、真剣に話を聞いてくれないのです。きっと、大介のような偉そうなバッヂをつけた偉そうな態度の人には丁寧でしょう。適任です。超特急で許可を貰ってきてください」
一度、山葵自ら圭介と共に事業計画の概要を説明するため、行政の担当窓口へ出向いたのだが、年配の担当者はまるで子供を相手にするかのように、まともに取り合ってはくれなかった。あまりにも露骨なそのひどい対応に、温厚な圭介がひと言物申そうとしたほどである。
そんな経緯もあって、圭介もあの担当者を毛嫌いしているのだ。
「私にかかれば日本の法律に則った許認可の申請など一発で通して、最短で許可をもぎ取ってみせますよ」
知らぬが仏。自信満々の大介に山葵と圭介はほくそ笑む。
「その言葉、信じますよ。では、これにて失礼───行きましょう、紀糸」
山葵は紀糸の手を引き、事務所を出た。
「紀糸、家に戻る前に見せたいものがあります」
きちんと除雪がされた道を、紀糸の手をしっかりと握ったまま進んでく山葵。
その目的地は、完成間近のプラネタリウム。
「一昨日、キラくんから最後のデータが送られてきました。まだ誰にも見せていません。紀糸、わさびと一緒に最初のお客になりましょう」
真っ暗なドーム型の館内に入り、山葵は紀糸と二人でカップルシートに寝転んだ。
そして山葵は手際よくスマホを操作し、その天体ショーは始まる。
座席一つ一つ、カップルシート、ファミリーシート、それぞれが自分達だけの世界に入れるように、周囲の音を遮断する作りになっている。さらには、座面にスピーカーが内蔵されているため、臨場感たっぷりだ。
山葵のこだわり、“わくわくするプラネタリウム”……まさにそれが実現していた。
山葵のアイディアとキラの技術、その集大成が今、二人の目の前に映し出されている。
時間にしてわずか30分。新体験のそれはあっという間に感じられた。
「いいですね」
「ああ、すごいな。大人でもこれだけ心を動かされるんだ、子供が見たら世界観すら変わるかもしれない。夢が膨らむだろうな……まさに、夢のアトラクションだ」
紀糸のその言葉に、山葵は彼の手をギュッと握り、満足げに笑みを浮かべる。
そして言った。
「春までにキラくんと微調整をして、スタッフをそろえて、次のゴールデンウィークにプレオープン、夏前にグランドオープンです」
計画の段階からここまでくるのに3年以上の年月が経過している。山葵はこの施設に沢山の人が訪れ、わくわくする様子をみるのがとにかく楽しみで仕方ない。
「そうか、いよいよか。ここまでよく頑張ったなわさび」
「───紀糸に褒めてもらうのは、プレオープンが成功したらです。もちろん、絶対成功するに決まってますが」
山葵は今、嬉しいこと、ワクワクすること、楽しいこと、その全てを夫である紀糸と共有したい思っていた。
昔の彼女ではあり得ないことだ。
北海道が、ノーザンが、そして紀糸が、山葵を変えていく。
そのことに、山葵本人も気付き始めていた。