東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
最後の一人は、なぜがしょんぼりしながら下を向いて呟いた。
「鵠沼 碧22歳です……IT関係はなんでも得意です。こちらではそう言った部分を担当することになると聞いています……東京出身ですが、なんだか自然の中で生きてみたくて北海道を選びました。前の二人みたいに鳥の名前じゃないですが、“あおくん”って呼んでください。基本陰キャです……よろしくお願いします」
なんとも個性的な自己紹介に、会場ではそれなりにウケていた。しかしここで、意外な人物が言葉をかけた。
「君の苗字の鵠という字は、白鳥だ。安心したまえ、鳥だ」
「大介……」
自分だけ鳥ネームではないことに落ち込んでいたアオの励ましたのは、なんと、大介だった。本人に励ます意図はなかっただろうが、うつむいていたアオは少し顔をあげ、圭介は弟を見直したように頷いた。
そこで、ようやく拍手が起きる。
「はい! では自己紹介が済んだところで最後にわさびからいいでしょうか」
挙手して発言したオーナーの山葵に、会場は静まり注目する。
「個性豊かなこの三人の新メンバーに加えて、実はもうお一方、この春に仲間が増えます。いえ、一人と一頭ですね───圭介、後はお願いします」
山葵の言葉に、何も知らないスタッフ達はなんだなんだ、とざわめきだした。
「はい。その前にですね、実は残念なことに施設長と副施設長が、来春に引退されることになりました。ですが、引退後もノーザンヴィレッジの新居で生活されますし、相談役としてちょくちょく顔を出していただけるそうなのでご安心ください」
誰にも話していなかったのか、圭介の説明に、会場内からは驚く声がチラチラと上がっている。
「そこで、新たな施設長として……なんと……あの十六夜 有馬騎手を迎えることとなりました。彼はずっとイギリス競馬で活躍なさっていた方です。ノーザンにもファンが多いかと思いますが、先日、ハネムーンのさ中に、オーナー自らスカウトしてきてくださいました」
馬好きと競馬ファンの多いノーザンでは、十六夜 有馬の名前を知らない者はいない。特に女性陣。圭介の説明中も、歓喜の悲鳴がそこらじゅうから上がっていた。そして、新入社員であるコバトもその一人。
「有馬さんはこの春引退されることが決まっており、引退後すぐに帰国され、此方へいらっしゃいます。彼の愛馬である、トラケーナー種の牝馬と共に仲間入りとなりすので、皆さん歓迎してあげてください。馬房はシノノメ・ホースの隣です」
その言葉に、男性スタッフからもざわめきが起こった。
ロンドンで山葵と握手を交わした後、有馬はメールでのやりとりで自分のパートナーでもある愛馬を自費で日本へ連れてきたいと山葵に願い出たのだ。もちろん、山葵は二つ返事で許可する。輸送費もノーザンで出すと言ったのだが、有馬は数百万程かかる生きた馬の輸送費を自分で払うと言ってきかなかった。
副施設長には、今の施設長補佐が就くことになっている。
こうして、ノーザンは新メンバーを加え、新たなスタートを切るのだった。