東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
「圭介、大介につばめさんを美術館へ案内するように頼んでください。笹くんはわさびと一緒にうんち施設の予定地を見に行きましょう」
ノーザンのエントランスに到着し、一行を出迎えた圭介に、すぐさま山葵が指示をだした。
「え?! 大介って誰?! まさか、あの後ろのインテリイケメンの事じゃないよね、わさびちゃん?!」
───ダメダメダメ! あんなイケメンと俺のつばめさんを二人っきりにするなんて!
大介の名前にいち早く反応した笹。圭介の少し後ろから遅れて現れた大介を目にして、慌てふためく。
これが山葵のお仕置きだとも知らずに……
「ほら、行きますよ。時間は限られているんですから」
わめく笹を引きずるようにして、わさびはニヤニヤしながら紀糸と三人で車を降りる。
笹の様子を不思議に思いながら、燕はキョトンとしていた。一方で、すぐにそれが山葵の嫌がらせだと気付いた圭介は苦笑い。
そして、昨日まで仕事で忙しくしていた紀糸は、疲れが残っているせいか、あくびをしている。
大介は、車内に残っていた燕を見て、少しドキッとしていた。
そして、数時間後───……各々が用事を済ませ、ノーザンのカフェで合流する。
「笹くん、もともと断るつもりもなかったけど、正式にこの仕事受けることに決めました。立地はそこまで良くはないけど、周囲は静かだし隠れ家みたいで私は気に入った。現存の建物も、古いけど雰囲気があってね、色々アイディアが湧いてきちゃった」
少女のように目を輝かせている燕に対して、馬のうんちの話を延々と聞かされた笹の表情は真逆だった。
「はい、それはもちろん反対しません……そんなことより、大介さんに口説かれたりしませんでしたか? 大丈夫でしたか?!」
何よりもそれが気がかりで仕方なかった笹。ついそんな言葉を口走ってしまう。
「……そんなこととはなに? 笹くん、ふざけてるの? 百欄さんはお仕事なの、失礼だよ」
笹に辛辣な言葉を浴びせる燕。笹はあるはずのない耳と尻尾を下げて、しょんぼりする。
「ブフッ……」
山葵がオレンジジュースを飲みながら笑う。
それを一区切りに、圭介が一つ咳ばらいをし、真面目な話しを始めた。
「それでは、月見里さんには後ほどノーザンファンタジアとの雇用契約書をメールでお送りしますので、確認してください。笹くんの籍は東雲のまま、出向という形になります。挙式後すぐにオーナーが準備している社宅に引っ越して来てくださるということですので、その様な段取りで進めさせていただきますね」
圭介が穏やかに微笑みながら、怒れる燕に伝える。
「はい、こちらの都合で秋以降になってしまい申し訳ないですが、よろしくお願いします。ですが、私は有給を40日近く消化して退職するつもりですし、今二人で住んでる家も売らずに維持するので、引っ越しの荷物はほとんどないんです。挙式前に移せるところは移してしまって、家財道具もこちらで揃えようと思ってます。なるべく早く仕事を始めたいので、無駄を一切無くしたスケジュールで動くつもりです。新婚旅行は、挙式前に10日間ほどで済ませる予定でいます」
仕事に対して真摯に向き合おうとする燕のその姿勢に、話を聞いてた圭介も大介も、初対面ながら彼女にとても好感が持てた。
「え?! 有給消化中は家でゆっくりしててくれるんじゃないんですか?!」
しかし、またもや水を差すような事ばかり口にする笹に、燕は冷ややかな視線を向ける。
「ブフッ……!」
そんな二人のやり取りを見て、再び吹き出して笑う山葵。
「では、二人が仲間入りしてくれる日を、ノーザンのスタッフ一同、楽しみにしてます」
最後は、山葵が締めくくった。