東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中

007

 
 
「すごい……このコードは一体誰が?」
 
「zuv.tecのキラくんというプログラマーです。このプラネタリウムは、|Northern Fantasia Inc.《ノーザン・ファンタジア》の感性とzuv.tecの技術力によって完成した次世代の施設です」
 
 この日、山葵は新入社員のITボーイ、アオにキラが作ったプラネタリウムの裏側を見せた。
 アオは見ただけでそれがすごいものだとわかったようで、その巧妙で複雑過ぎるキラの技量に引きつつも、目を輝かせている。
 
「zuv.tec……あの大企業ですか、あのグループは子会社でもお洒落な人しかエントリーできないという噂がありました……」
 
「ブフッ! そうなのですか? 今度zuv.tecの代表とキラくんを紹介しますが、引き抜かれてもホイホイと付いて行ったら駄目ですよ」
 
 ITについてさほど興味のない山葵だが、アオの頭の中を覗けば、その知識量と応用力がどれほどのものであるかは理解できた。山葵は、作業中のキラの頭の中も覗いており、二人が似ていると感じたのだ。
 おそらく、キラとアオが顔を合わせて少し会話でもすれば、キラはそれに気付くはず。あの男の事なので、俺が育ててやる、などと言って連れて行きかねない。
 山葵にとってアオは、自分が見つけた金の卵だ。殻を割って出てきたら、きっと白鳥になる。山葵の直感は必ず当たるのだ。
 
「僕には無理です。都会の企業の雰囲気は合いません。それに、このツナギを頂いたからには、これを着て、ずっとここで働きたいです」
 
 最終面接の日に、アオが山葵の着ていたツナギを欲しがっていた事を思いだした山葵は、彼の社員寮のクローゼットに色違いで10着ほど忍ばせておいたのである。それに気付いたアオは、ものすごく喜び、翌朝の朝食で圭介にお礼を述べたそうだ。
 
「その言葉、信じますよ。ずっとここで働いてください。明日、パソコン屋さんが来るので必要な機器を頼んでください。わさびはよくわからないので、アオくんに任せます。お金のことは気にせず、一番良いと思う物を好きなだけ頼んでください」
 
「い、いいんですか?」
 
 恐る恐る確認するアオに、山葵はニヤリと笑みを浮かべる。
 
「先行投資です。アオくんには、それだけの事を頼むと思いますので、覚悟してください」
 
「嬉しいです。僕、無理難題ほど燃える質なんです」
 
「それはいい趣味をしています。では、わさびはどんどんアオくんを燃やすことにします」
 
 山葵は早々にアオを掌握したことに満足する。
 そもそも、ツナギをプレゼントした時点でそれはすでに済んでいたのだった。
 
 
 
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