東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
「大介、頼んだ件はどうですか?」
 
「今、行政担当者のケツを蹴り上げて急がせていますよ。あいつら職務怠慢も良いところだ。呑気に茶なんか飲んで……」
 
 行政の対応が遅いと感じたせっかちな大介は、抜き打ちで様子を見に行った。
 そして呑気に雑談をしながらお茶をすする担当者を現行犯でとらえ、問い詰めたのだという。
 
「その気になれば、行政のいち担当者くらい、いくらでも異動させることは可能ですからね。それくらいのコネクションは私にもありますから」
 
 大介は平然とそんなことを口にする。隣のデスクで仕事をしている圭介は、過激な弟の言い分に、苦笑いだ。
 
「あの担当者を脅したのですか?」
 
「ええ。仕事を円滑に進めるためには、きれいごとを言っている場合ではありませんから。他に案件が詰まっているのならまだしも、その様子もないのですからね」
 
 東京どころではなく、世界で仕事を行っていた大介からすれば、日本の田舎の行政の処理スピードなど、あくびが出るほど遅いと感じるのだろう。
   
「大介、わさびはその考え、嫌いじゃないです」
 
「ふん───私はこんなものではありません。兄さんからこの先の計画を聞いていますが、行政があの様子では早々に着手してしまった方がいいのでは?」
 
「大介に任せますが、独断での行動は絶対に禁止です。必ず圭介に相談してからにしてください。ここは田舎です。田舎には田舎の暗黙のルールというものがあるそうですから、新参者であるノーザンが場を荒らしてはいけません。ゆっくりと周囲との信頼関係を築いてから、というのが大事なこともあるのだと、わさびは昔お爺から教わりました」
 
 一回り年上の大介に対して、堂々と諭す山葵に、話を聞いていた圭介は嬉しそうな笑みを浮かべ、無言で頷いている。
 
「……」
 
 大介も大介で、子供だと思っていた山葵のもっともらしいその言葉に、若干だがそれもそうか、と納得していた。
 
「大介、そんなに仕事がしたいのなら、一つ頼まれてください。ヴィレッジの中と、カフェの隣に超防音の託児所を建設します。その手配と、そこで働いてもらう経験豊富でベテランの保育士さんと小児科に強い専門医をピックアップして、勧誘してきてください。そうですね、来年の春までには良い報告を待っています」
 
「……え?」
 
 専門外の任務に、大介は一瞬戸惑う。
  
「出来ないのですか?」
 
 山葵は仄暗い目でジッと大介を見つめた。紀糸なら、いつもこれで一発KOだ。

「……あいにく、できない、という言葉は使わない主義でして」
 
「そうですか、流石は大介です。では、頼みました」
 

 山葵は最近、大介の転がし方がわかってきたような気がしていた。
 もちろん、山葵のそれには圭介も気付いており、弟が彼女の手のひらの上で転がる様子をそっと見守る事にしている。 
 
 
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