東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
「わさびちゃん、今日大介に頼んでた託児所の件だけど……」
 
 冬が終わり、週末婚を再開した山葵と紀糸。
 平日の夜はこれまで通り、圭介と大介と三人での生活を送る山葵は、いつものように圭介に髪を乾かしてもらっていた。
  
「あれは、わさびと紀糸の子供が出来た時の為です。それに、社員用の分譲地も人気なので、これからは女性が働きやすい環境の整備もしていくつもりです」
 
 ドライヤーの音が止まり、続いて櫛が髪を通っていく。
 
「そうだよね、女性は大事な戦力だ。それに東雲家の後継者も必要だもんね。でも、具体的に妊活を始める時期は決めてるの?」
 
 先日紀糸と決めたことを、圭介には包み隠さず話しておくべきだと思った山葵は、そのままを伝えることにした。
 
「妊活というのかは知りませんが、つばめさんと笹くんがこちらに来たら作ると決めました」
 
 山葵は以前、紀糸の母親に連れられて、ブライダルチェックというものを受けたことがある。その際に言われたことは、痩せているが栄養状態はよく、生理も規則的で順調。子宮も卵巣も綺麗で妊娠にはおそらくなんの問題もない。卵管もきちんと通っている、との診断を受けている。紀糸の母親も満足の結果だった。
 
「子供が欲しくなったら、毎朝、起き上がる前に体温計をベロの下に挟めと言われています。ものすごく面倒ですが、最低でも三か月前から始めるように言われました」
 
 山葵が医師から言われたというそれは、基礎体温を測れという意味なのだが、彼女はまともに医師の話を聞いてはいなかった。
  
「そっか、それを聞いておいてよかったよ。わさびちゃんの子は僕にとっては孫みたいな存在だから、協力させてね」
 
「はい、お願いします」
 
 ───圭介が協力してくれるのなら、わさびはきっと何もしなくてもいいはずです。
 
 しかし、山葵のこの思惑は後に外れてしまうことを、彼女はまだ知らない。
 
 
 
「圭介、雪が解けたのでバスケットボール大会を開催しましょう。プラネタリウムのオープン前がいいです」
 
 山葵は突然、思い出したかのように言った。
 
「ははは、そうだったね。確か、前に聞いた話では、zuv.tecのあの三人もダイビングにハマる前はバスケをしていたと聞いたよ。それに、笹くんも運動神経はいいみたいだし」
 
「そうですか、それはいいことを聞きました……健二さんのバーで会った、ひよ子さんの会社の主任も大学でバスケットの選手だったと聞いています。これはもう、全員集合ですね」
 
 また一つ、山葵の心にワクワクが生まれた。
 
「アオくんはきっと運動ができないと思うので、動画撮影をしてもらって、ノーザンチャンネルで配信してもらいましょう。カモメくんは真面目なので、審判です。ふふふ……楽しみです」
 
「それならいっその事、毎年恒例のお花見の時の余興としたらどう? 一回で済むし、年配のスタッフさんたちも来るから、若者と年配者のいい交流の場になるんじゃないかな」
 
「圭介、さえてます。決まりです。早速明日、杏奈ちゃんとコバトちゃんに話して企画してもらいましょう。フフフ……」
 
 
 
 
 山葵が笑っていた丁度その時───……東京の本社でまだ仕事をしていた紀糸は、謎の悪寒を感じていた。
  
 ───っなんだ? 風邪でも引いたか? ……今日は早めに切り上げて帰るか……ハァ、わさびに会いたい……
 

 
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