東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
009
圭介の父親は山葵のお爺、神楽 喜八が支援していた有名な脳科学者だ。
お爺は昔から様々な分野の若い研究者を支援するのが趣味だった事もあり、偶然その人物の支援をはじめた。
しかしその偶然がきっかけとなり、お爺と圭介は出会ったのである。
「百欄教授の論文はわさびもたくさん読みました」
「そうなの? 何かためになったかな?」
「……コメントを控えます」
「ははは、それでいいよ」
百欄教授は主に、脳科学における感情・情動の研究を行っており、喜び・恐怖・怒り・共感などの「心の動き」が脳内でどのように生まれ、記憶や行動にどう影響するかを神経レベルで解明することを目的としていた。
しかし、そんなご立派な研究をしているにもかかわらず、彼は男として、父親としてクズだったのである。
圭介と大介は同じ父親、同じ母親から生まれた。それは間違いない。
しかし、二人の母親は、大介を出産してまもなく、産後鬱を発症し、自ら命をたった。
当時小学校中学年だった圭介は、母親の死の理由を理解した上で、父親を恨み、悲しみに暮れた。
そんな中、彼の父である百欄教授は、あろうことか妻の四十九日も過ぎないうちに後妻を娶ったのだ。
後妻は、生まれたばかりだった赤ん坊の大介に愛情を注ぎ、我が子のように育てた。
一方で、いつまでも亡き母を想い続ける圭介には一切無関心。その存在を無いものとして扱ったのである。
後妻と百欄教授の間に愛があったかは定かではないが、百欄教授は研究ばかりで全く家庭を顧みない男だった。ゆえに、圭介が後妻からどんな扱いをうけていたかなど、知る由もなかった。
父親は知らなかったが、山葵のお爺、神楽 喜八は全て知っていた。
何故なら、研究の援助を続ける上で、ある程度の百蘭家の事情は定期的に把握していたからだ。
そして、ずっと圭介の事を気にかけていた。
初めは他所の家庭に口を出すわけにもいかず、そっと見守るだけにしていたが、圭介が中学生になりしばらくした頃、お爺は動いた。
家庭内が酷い状況でありながらも、圭介はグレることなく優秀な成績を維持し続けた上、品行方正な生活態度が学校内で非常に評価されていた。
お爺はそれを理由に、圭介を支援したい、と彼の父親に申し出たのだ。
そしてそれは、圭介の運命を変えた。