東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
 お爺はまず、圭介を全寮制の学校へ編入させ、勉強に集中できる環境を与えた。
 もちろんそれは、当時の圭介本人にお爺自らが向き合い、希望を聞いての判断だ。

 圭介はお爺だけに、家から出たい、と悲痛な心情を打ち明けていた。

 もちろん、圭介の両親は反対することもなく、表向きは快く送り出してはいたが、圭介はそれから高校を卒業するまでの五年以上もの間、一度も実家には帰らなかった。

 圭介のその行動を、心配する様子もなければ全く気にもとめない家族たち。
 それどころか、圭介のいない百蘭家は、はたから見れば、大介を中心として、いたって普通の幸せ家族のように見えていた。

 お爺はそんな歪な百蘭家を、常々案じていた。


 実家には帰らなかった圭介だが、お爺には二ヶ月に一度面会していた。彼はお爺にだけは心を開き、学校での悩み事や進学についてを相談していたのだ。

 圭介は神楽 喜八の役に立ちたかった。とにかくどんな事でもいいから、お爺に恩返しをしたいと心に決めていた。

 そんな経緯から、今の国家資格マニアのような圭介がある。



 そして数年前、すでに弁護士バッチを手にしていた圭介のもとに届いた訃報。
 亡き母の父親、圭介を可愛がってくれた祖父が亡くなったのだ。彼の母は一人っ子だった。

 圭介自ら、祖父の相続の手続きをした。
 最終的に、一人残された祖母と相談し樋浦(・・)家の養子となったのだ。

 その際、学生だった大介と少々揉めたが、それはまた別の話。





 一方……

 山葵の記憶では、圭介の姓はすでに樋浦であり、神楽とは関係のない弁護士として、お爺に会いに来ていただけの男だ。

 実は違う。

 昔、お爺は何故か、頑なに圭介と幼い山葵を会わせようとしなかった。
 しかし圭介は、二ヶ月に一度お爺に会いに来ては、顔を合わせる事こそないが、必ず毎回一方的に山葵を見ていた。そしてその成長を陰ながら見守っていたのである。 

 当時の幼い山葵は、常に無表情ではあったが、圭介の目には本当に本当に可愛らしく見えた。

 圭介はいつも、山葵を見るたびに、年の離れた弟、大介の事を思い出していた。
 そして、自分が大学を卒業する頃、ようやく気持ちの整理をつけて、一歩を踏み出した。
 兄として(・・・・)、弟の大介に会いに行ったのだ。
 それ以来、何故か大介に懐かれている。


 当時、お爺が幼い山葵と圭介を会わせなかった理由───……
 それは、他人の子である山葵を可愛いがる前に、可愛がるべき相手が他にいる事を、気付かせようとしていたのでは……と、歳を重ねた今、圭介はそんな風に思っていた。



 しかし、大きくなりすぎた実の弟の大介よりも、やはり山葵の方が可愛い圭介だった。



 
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