東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
012
夏の緑がすっかり色褪せ、草原は金色に染まりはじめた。
風が吹くたび草が波のように揺れ、自由を謳歌するサラブレッドたちのたてがみも、同じリズムで踊るようにゆらめく。
空は高く、雲は薄く、空気は澄み渡り、遠くで聞こえる丹頂鶴の鳴き声が、季節の変わり目を告げる鐘のように響いている。
ノーザンは、静かに秋を迎えていた。
「もう、冬毛が出てきましたね」
『朝晩と冷え込んできたからね』
その日、山葵はいつものように朝から馬たちのブラッシングを行っていた。今日は神代家から預かったムーンライト・アーチャーくんだ。
しかしそこに……
「わさび! どこへ行ったかと思ったら……何してるんだ、早く支度しろ。今日は笹たちの結婚式だって言っておいただろ」
「あ、そうでしたね」
『わさびちゃんってば……』
……今日も山葵は絶好調───
日本列島全体が秋晴れとなったこの日、紀糸と山葵は笹と燕の結婚式におよばれしていた。
「あ、わさびたちの時と同じ美容師さんです」
「そうみたいだな」
他人の結婚式に出席するのは初めての山葵。
招待状を受け取った時、彼女は迷わず欠席に〇をつけようとしていた。
しかし、さすがにそれは笹が可哀想だ、と紀糸と圭介に説得され……では、美味しいものが食べられるのなら、ということで、今日、彼女はここにいる。
黒いパーティードレスでおめかしをした山葵は、黙っていればものすごく目を引く美人だ。
自分の妻へ向けられる周囲からの様々な視線に気付いた紀糸は、牽制するように彼女の腰に手を回し抱き寄せる。
しかし……
「なんですか紀糸、歩きにくいです。あまり引っ付かないでください」
山葵の手のひらが、紀糸の顎を押し上げ、邪魔にされる。
「……」
こういう時こそ、頭の中を覗いて欲しいと思う紀糸だった。