東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
そうこうしていると、新郎新婦がロビーへ現れる。
山葵たちに気付いた二人は、嬉しそうに手を振っていたが、たくさんのゲストに囲まれているため、しばらくは抜け出せないだろう。
「つばめさん、綺麗です」
「わさびはもっと綺麗だったぞ」
「紀糸、空気読んでください」
「……」
そして、広々とした屋外のガーデンで行われた人前式。
自分たちの時と異なる誓いの言葉に、山葵は興味津々だ。
「笹くんたちは、わさびたちに誓ったんですか?」
「そうだな。それが人前式だからな」
「どうしてわさびたちは、キリストに誓ったんですか?」
「それがキリスト教式だからな」
「……紀糸に聞いたわさびが間違っていました。あとでChatGPTに聞きます」
「……」
その後、山葵お待ちかねの披露宴の時間がやってきた。
山葵の食事量を知る笹のはからいで、彼女のコース料理だけ一皿に三人前ほどの量が盛り付けられていた。
紀糸の皿と自分の皿とを見比べ、その違いに気付いた山葵は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「あとで笹くんにご褒美をあげなくてはいけません」
「祝儀はたっぷり包んであるから気にせず食え」
「では遠慮なく」
新郎新婦そっちのけで食事に夢中になっている山葵。その隣の紀糸もまた、自分の妻の美しいテーブルマナーと、見事な食べっぷりを微笑ましく見ていた。
すると……
「ははは! ほら、大正解だったでしょう、つばめさん!」
「わさびちゃん、お料理の量多すぎない? 大丈夫? 笹くんが、わさびちゃんのお皿には三人分盛るって言って聞かなくて……嫌がらせとかじゃないの、ほんと……」
心配そうな花嫁と、爆笑する新郎がテーブルに回ってきた。
「(もぐもぐもぐ……)」
「結婚おめでとう、二人とも。いい式だった、感動したよ」
口に料理が入っている山葵の代わりに、紀糸が二人に応える。
山葵は猛スピードで咀嚼しながら、思った。
───紀糸はウソつきです。式の最中、頭の中はわさびの花嫁姿を思い出していただけの助平でした。
「(ごっくん)───つばめさん、安心してください。わさびは五人分でも平気です。笹くん、量が足りないという、新しい嫌がらせですね」
口に入っていた料理が食道を通過し終え、ようやく山葵も会話に参加する。
「はははは! そっか! なら、デザートは五人分にしてもらうよ! それで許して!」
「いいでしょう」
幸せいっぱい、お腹いっぱいの結婚式だった。