東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
「へぇ、それで結局雇ったのか? 樋浦氏の弟さんを」
「雇いました。生意気な奴ですが、仕方ありません。優秀そうですし、圭介のためです───冬が来る前にこっちに引っ越してきます」
山葵からすれば、自分よりもひと回り年上であろうがなんだろうが、生意気な奴となる。それは彼女がその人物を見くびっているわけではない。
金曜日の夜。
山葵の夫である東雲 紀糸は、東京にある自分の仕事場からそのまま飛行機に飛び乗り、愛する妻の待つ北海道の自宅へと戻ってくる。
二人が一緒にいられるのは、週末だけ。
しかしそれは、経営者として多忙を極める二人にとって、最善の夫婦のカタチとなっている。
「なら、余計に俺達は引っ越しておいて良かったな」
「紀糸はそうでも、わさびは月曜の夜から金曜日の朝まで一緒です」
紀糸は山葵へのプロポーズを済ませた後すぐに、密かに二人の新居の準備を進めていた。そしてつい先月、念願の二人だけの邸宅が、完成したのだ。
週末だけの夫婦の家にしては大きすぎるその邸宅は、ノーザン・ヴィレッジと命名された社員用の分譲エリアで最も立地のいい場所に位置している。そしてヴィレッジのシンボルのような存在となっていた。それほどに、贅を尽くした邸宅であるという事なのだ。
「なら、平日もここで生活していればいいだろ」
「それは難しい相談です。わさびは紀糸がいない日は圭介がいないと生きていく自信がありません」
山葵は相変わらず、朝の化粧からはじまり、夜の風呂上りのドライヤーまで、圭介に世話をしてもらっている。もちろん、掃除も洗濯も任せっきりだ。
「五郎さんの飯だけじゃ、樋浦氏依存は解消されなかったな……」
「はい、残念でしたね」
金曜の夜の日課ともなっている夫婦での入浴の時間を過ごす二人。
お互いに一週間の出来事を報告し合いながら湯につかり、肌を触れ合わせ、疲れを癒やすのだ。
「わさび、今日は夕飯の量を減らしたか?」
お湯の中で山葵の腰に腕を回した紀糸は、いつものポッコリお腹が若干小さいことにすぐに気付いた。
「はい、紀糸と生殖行為をするためには腹八分目である必要がありますから」
「そうか───……可愛い奴め」
「そんなに喜ばないでください。紀糸はわさびよりも10歳もおじいさんなのですから、キツかったら言うのですよ」
「……」
───東雲 紀糸32歳、身体年齢は22歳。血管年齢は24歳です。
これまでに何度も山葵に伝えてきたが、伝わらない紀糸の身体年齢と血管年齢。紀糸はしかたなく、何度目かになるその言葉を口にはせず、そっと胸にしまう。
それでも、愛する妻には伝わるのだ。