東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
先程の熱々ルイボスティーで舌が若干ヒリヒリしているせいか、語尾を噛む山葵。
「紀糸のお父さん、安心してください。紀糸とわさびはもうすく子作りを始めます。下手な演技などしなくても、時が来ればおのずと孫の顔は見れます」
「っな───!」
今の彼女の言葉と、顔を真っ赤にする父親のその反応を見て、紀糸は理解した。
「そう言う事か……孫の催促をしたいがために、癌だなんて嘘までついて、俺達をここへ来させようとしたんだな───まったく、大人げない……」
違和感の謎が解けた紀糸は、一つ大きくため息を漏らす。
山葵はその横で、再びルイボスティーのカップを手に持ち、懲りずにフーフーッと冷ましている。
「紀糸、仕方ないでしょう。結婚式からもう一年も経っているじゃない。週末婚なんてしているから、デキないのではないの? わさびさん、東京へ戻っていらしたら?」
話の矛先が自分に向いた事に気付かず、山葵は夢中でルイボスティーを冷まし続ける。
「母さん、その件については結婚前に散々説明して、口を出さないと約束しましたよね。それに、まだ一年だ」
「わさびさんはまだ若いからいいけど、紀糸、貴方もう33よ? 東京と北海道を往復する生活なんて、この先ずっと続けていくのは無理よ」
「ですから、そのあたりもきちんと考えてます。わさびが妊娠したら、俺は北海道に移るつもりで、業務も調整しているところです」
───誰もかれも俺を年寄り扱いして……
「あら、そうなの?」
「そうです」
偉そうに言ってはいるが、要するに、こうして時折実家に顔を出し、キチンと会話をしていれば、このような面倒な事にはならなかったということに、紀糸は、気付いていない。
「ですって、あなた……いらぬ心配だったみたいね」
「そうか……なら、もう少し私も頑張ってみようか」
あっさりと引き下がる両親の様子に、どれだけ孫の顔が見たいのかと、紀糸は呆れた。
「ええ、是非そうしてください。俺は父さんみたいに家庭を顧みず仕事ばかりを優先するつもりはありません。子供は俺とわさびとで北海道で一緒に育てます。何人作るかわかりませんが、最後の子が小学校に上がるまでは、父さんに当主でいてもらわないと困ります」
「ブフッ───紀糸はあと10年も“御曹司”でいるつもりですか……齢四十の御曹司……愉快です」
自分的にいいことを言ったつもりの紀糸だったが、山葵に台無しにされてしまう。