東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
「そうか……では私も精密検査を受けて、元気で長生きしないとな」
「紀糸のお父さんの肺の影はおそらく、医師の言う通り瘢痕と呼ばれる過去の炎症の痕跡です。胸部レントゲンでの偽陽性率は約96.7%と言われています。安心してください」
突然そんなことを言いだす山葵に、紀糸の父親は驚いていた。それもそのはず……
「……私は肺に影などと説明したか? 医師に言われたことまでなぜこの子が知っている?」
当然、父親の頭の中を覗いて、その記憶の中のレントゲン画像や何やらを見たなどと言えるはずもない。山葵は聞こえるだけでなく、視覚的にも感じ取れるのだということを、紀糸は最近気付いたばかりだ。
「っ───晴人から、俺が聞いていたんだよ」
「晴人が知る話ではない。私と医師しか知らないはずだ───まさか……」
今の話の流れから、父親が何を言おうとしているのか、紀糸はまったく見当もつかなかった。こちらこそまさか、厳格な印象しかない父親の口からいきなりファンタジーな言葉が出てくるとは思えない。
「紀糸、お前……私の事が心配で医師を訪ねたな?」
「……」
「───ブフッ! (小声)わさび、お父さんのポジティブ思考、嫌いではありません」
こうして無事に、二人はまた一歩、未来へ向かってマスを進めた。