東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
014
十月───……北海道のノーザンに、挙式を終えた笹と燕が仲間入りした。
新婚の香月夫妻に山葵から贈られた新居は、ノーザンヴィレッジのシンボルでもある山葵と紀糸の邸宅の右隣。隣と言っても、区画的な意味で、だ。庭などを含めると、数十メートルは離れている場所に建てられた、お洒落な近代建築の立派な一軒家。
「わさびちゃん───……いいえ、今日からはオーナーと呼ばせて頂きますね。よろしくお願いいたします。東雲さんも、今後とも笹くん……夫をよろしくお願いいたします」
本格的に引っ越しを済ませたこの日、燕は夫の笹と共にヴィレッジの主である山葵と紀糸に挨拶を行うため、二人の邸宅を訪ねていた。
「わざわざ悪いな、改めて二人を歓迎するよ」
山葵との休日を楽しんでいた紀糸は、すこぶる機嫌がいい。笹は紀糸のその様子にピンとくるものがあった。
───わさびちゃん、朝からご苦労様……っまぁ、それは我が家も同じですが……ふはは……
頭の中を山葵に覗かれているとも知らず、笹は一人平然を装っている。
「つばめさん、基本的にヴィレッジにいる時は皆プライベートです。今までどおり名前で呼んでください」
とはいえ、笹がいつも変な事を考えていることは以前から知っている山葵は、興味もない。むしろ、紀糸の機嫌がいいので、山葵の機嫌もいい。この夫婦は大体こんな感じ。
「ほら、言ったでしょ? わさびちゃんはこういう子なんですってば」
「……」
ここに来る前、笹は燕に改まって二人に挨拶なんて必要ないのでは、と言っていた。
しかし、燕はそんなわけにはいかない、と荷解きを中断してまで、失礼のない時間帯を選び邸宅のインターフォンを鳴らしたのだ。
「ふふっわかった。ありがとう、わさびちゃん。それより、本当に素敵な社宅をありがとう。二人だけなのに、なんだか立派過ぎるみたいで……申し訳ないくらい」
燕は、とある事情で自分と笹はこの先、共働きで子どもを持たない夫婦となることを覚悟している。公言しているわけではないが、特に隠しているわけでもない。
「今は二人でも、未来は違います」
「そう……だね、ありがとう」
山葵の言葉に、燕はほんの少し渇いた笑みを浮かべる。
燕の見せたその表情に、山葵は続けた───……